第110話 付き合ってる?
「どわっ!」
ヤンの様に前へは飛ばなかったが、イム・ユンジュの体が一瞬浮いた。
「あなたは! 本当に、もう許しませんよ!」
イム・ユンジュがトラブルに迫った。
テオは前に出ようとするが、それをセスが止めた。
トラブルはメンバー達をチラッと見て、イム・ユンジュの腕を
「セス、なんで止めるのさ」
テオの不満にセスは小声で「過去の一端が分かるかもしれない」と、答えた。
廊下のイム・ユンジュの声がかろうじて聞こえる。
「…… 心配して…… 本当はあなたに…… 丈夫な体ではないでしょう…… どうして…… いい加減に…… 」
事務所スタッフが何事かと階段から顔を出した。
トラブルは、大丈夫と、手を上げてジェスチャーで伝える。
医務室の中からも聞き耳を立てている7人に気が付いたトラブルは、再びイム・ユンジュの腕を
トラブルは普通の速度で手話をする。
イム・ユンジュはチラリとメンバー達とユミちゃんを見て、手話で返した。
2人は手話で会話を始めた。
「訳して」と、ノエルがテオに言う。
「分かんないよ。あれはアメリカ手話?」
テオの言葉にヤンは首を振る。
「アメリカ手話ではありません。どこの言語だろう」
「たぶん、日本語だ」
セスはそう言い、ジッと2人の会話を見つめるが、分からないと降参した。
「イム・ユンジュ先生が日本語手話が出来るなんて知りませんでした」
「僕達だってトラブルが出来るなんて知らなかったです」
セスはトラブル達の動きを見ながらスマホで検索するが「ダメだ。日本手話か日本語手話かすら、分からない」と、スマホを投げる。
「なにそれ、日本語って2つあるの?」
「手話だけな」
「ねぇねぇ、あの2人付き合ってるの? あれ、痴話喧嘩じゃん」
ユミちゃんが口を尖らして言い出した。
「久しぶりに会うと言っていたので、元カノとかですかねー」と、ヤン。
「医者と看護師ってあるあるよねー。先生?」
「そうですね。パク・ユンホの所で一緒に仕事してたみたいですしね」
「こうして見ると、お似合いよね」
「そうですね。お似合いですねー」
ユミちゃんとヤン・ムンセの掛け合いを聞いて、テオは呼吸を忘れて口をパクパクさせる。
「テオ、落ち着いて」
ノエルが声を掛けるがテオの動揺は止まらない。
「お、お似合いじゃないよ!」
声が裏返る。
「えー? お似合いよー。少し歳が離れてるけどトラブルは大人っぽいし」
ユミちゃんは悪びれず言う。
「僕の方が…… 」と、言いかけたテオの口をゼノが塞ぐ。
「テオどうしたのよ」
「なんでもありません」
ゼノは愛想笑いで応えた。
セスが話題を変える。
「トラブルにジョンの部屋に泊まって
「えっ、どうすればいいの?」
「咳をするとか、気を失うとか自分で考えろ。マネージャーが泊まりに来る事になるぞ」
「え、それは嫌だ。えーと、どうしよう」
「いやいや、何を言っているんですか。イム・ユンジュ先生に仮病は通じませんよ」
ヤンが言う。その意見にノエルが強く
「そうだよ。トラブルにもすぐバレちゃった時があるんだから」
(第1章第49話参照)
「あんた達、仮病なんか使ってサボろうとしてるの?」と、ユミちゃんが
「違いますよ。トラブルに泊まりに来てほしいんです」
ゼノがフォローを入れたつもりが、ユミちゃんは「いやらしいー!」と、身を震わせた。
「いや、トラブルの方が安心だから。ね? そういう意味だよね?」
ノエルのフォローにゼノは首を何回も縦に振る。
「下心みえみえ! 言っておくけどねー、トラブルは私のモノですからね。トラブルに手を出したら、いくらゼノでも全力で阻止させて頂きますからね!」
ユミちゃんは拳を握って言う。
驚き、呆然とユミちゃんを見るヤン・ムンセとメンバー達。
テオはそっと顔を下げてノエルの後ろに隠れた。
「もー、仕事に戻る! 」ユミちゃんは立ち上がり、トラブルとイム・ユンジュの重い空気に向かって遠慮なく叫ぶ。
「この子達のメイク、落とさないと仕事が終わらないんですけどー!」
トラブルは、ごめんと、手を合わせながらユミちゃんへ駆け寄る。
セスに今日のスケジュールを聞く。
「この後は、俺とゼノは残っている作業の続きをやって、3人はダンスレッスンだ」
トラブルはセスに通訳を頼み、ジョンに言った。
体を動かして、いつもより早く息が上がる時や少しでも苦しくなったら教えて下さい。今、口の中にベビーパウダーの味はしますか?
「ううん、しない。ねぇ、トラブルが泊まりに来てくれるんでしょう?」
はい。私が行きます。
「よかったー」
ジョンの心底安心した笑顔にトラブルも笑顔を返す。
メンバー達とユミちゃんはメイク室へと戻って行った。
(さて…… )と、トラブルはイム・ユンジュに向き直る。
ヤン・ムンセにも分かる手話で、話の続きをしましょうかと、指を鳴らした。
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