第423話 外出禁止


 トラブルは慎重に手話で返事をした。


状況を正確に知っている人の方が、ユミちゃんをめられると思いました。


「何? あんた! 早く通訳しなさいよ!」

「あんたって、ひどいよー」

「早くっ!」

「はい! えっと、状況を知っている人が止められるって」

「は? ……ああ、私を止められるって事ね」

「うん、そう」

「なんで、テオなの? マネージャーでも、いいじゃない」


(そう来ると思いました。えー……)


ユミちゃんは、マネージャーの言う事は聞かないでしょ?


「え! それ、僕が言うの⁈」

「ちょっと、早く。トラブルは何て言っているのよ」

「えー、ユミちゃんはマネージャーの言う事は聞かないから……って、トラブルが」

「いや〜ん。トラブルったら私の事、よく分かってるんだからー。ま、解決したって言うなら、安心したわー」


明日の公演に備えて寝て下さい。お疲れ様でした。


「明日に備えて、早く寝てだって。お疲れ様だって」

「顔を見れて幸せだったわ〜。あ、そうだ。ハン・チホの肌の事、ソヨンに言っておいたから。困った事があれば、トラブルに相談する様に言ってあるから、よろしくねー」


ジョンの毛嚢炎もうのうえんは、どうなりましたか?


「ジョンのー……おでこは、どうなったかだって」

「まだ、赤みはあるけど平坦になって、痛みは自制内じせいないよ」

「ユミちゃん、じせいないって、何?」

「あんた、そんな事も知らないの⁈ 自制じせい出来る、範囲内って事よ」

自生じせい自製じせい?」

「自分で生やしてどうすんのよ! 自分で制御できる範囲内よ!」


 トラブルは、おーと、拍手を送る。


「んふふ。トラブルに教えてもらった事は、忘れないわー。テオ、あんた、本当にバカよねー」

「さっきから言葉の暴力が痛いよー」

「何よ。甘えてんじゃないわよ。まったく、もっと勉強しなさいよ」

「はいー……」


 トラブルは苦笑いをしながら、自称恋人に叱られる恋人に手話をした。


テオ、会えて嬉しいです。


「僕も」

「あ? 何? トラブル、なんか言った?」


 ユミちゃんは、テオとスマホの中のトラブルの顔を見比べる。


「う、ううん。うん、勉強しろって」

「本当にハッキリとモノを言えない男よねー。あんたの彼女は苦労するわー」

「う、ううう……」 

「ったく。トラブルー、仕事中にごめんねー。こいつら、外出禁止にしておくから。じゃあねー、おやすみ〜。ん〜、チュッ」


 トラブルは、ユミちゃんの投げキッスに指ハートで答え、苦笑いのままスマホを切った。


「あー、トラブルに会えて幸せ〜」

「うん、僕も。あ、いや、良かったね」

「さ、トラブルの余韻が残っているうちに寝よっと。テオ、帰って」

「あ、うん。おやすみなさい」

「おやすみー」


 ユミちゃんはテオを追い出して、ふと思い返す。


(ん? 勉強しろの返事が『僕も』? 変ね……ま、テオはいつも変か。さあ、トラブル〜、一緒に寝ましょうね〜)


 ユミちゃんはベッドに入り、隠し撮りのトラブルの写真にキスをして、枕の隣に置いて寝た。




 

 テオはぐったりしながらノエルの部屋に戻る。


 皆は、すでに、それぞれの部屋に帰っていた。


「テオ、お疲れさん。ユミちゃんに上手く言えた?」

「ううん。言えなかった」

「それは、大変だったねー」

「うん、ユミちゃんに突っ込まれまくって、トラブルが助けてくれた」

「そっか」


 長い付き合いの幼馴染はそれだけで察してくれる。


「セスは? 大丈夫なの?」

「うん、セスはジョンから元気をもらったから、大丈夫だよ」

「……ノエルは?」

「少し、疲れたけど。大丈夫」


 テオはノエルの疲れた顔を見る。


「……ノエル、一緒にお風呂に入ろうか。背中を流してあげる」

「本当? 嬉しいけど……」

「けど?」

「僕に発情しないでね」

「何なの、それー! もー、ボタンを押して……? レバーを下げて……? 電源を……? 何だっけ?」

「スイッチを切ってくれるの?」

「そう! それです!」

「あはっ! 電源ってー」

「もー、少し間違えただけじゃーん」


 テオは腕を組んで、ふくれて見せる。


「テオちゃーん、ねないのー。背中、お願いしまーす」

「最初から、そう言えばイイじゃんよー」

「はい、はい。ごめんねー」

 

 ノエルはテオの背中を押して、バスルームに連れて行く。


(テオ、可愛い。僕が発情しちゃいそうだよ……)


「ギプスの修正液、濡れたら取れちゃうかな?」 


 テオは、ノエルのシャツを脱がしながら聞く。


「また、ジョンの顔が出て来たら嫌だから、ビニールを巻いてみるよ。ほら、そこの」

「これ? OK」


 2人は裸でバスタブをまたぐ。


 テオはスポンジを泡だてて、ノエルの首から洗って行く。


「手を上げててくれないと濡らしちゃいそうだよ」

「だって、くすぐったいんだよー」

「ほらー、洗えないからさー。ジッとしていてよー」

「その、微妙なタッチ、やめてー」

「強い?」

「ううん、エロい」

「何なの、それー」

「あー、背中、もっと強くこすって。気持ちイイー!」

「1人だと、片手で洗えないもんね」

「そうなんだよー、泡を肩から流すだけだからさー」

「いつでも洗ってあげるからさ、言ってよ」

「毎日、お願いしまーす」

「う。それは嫌だ」

「だよね。毎日、洗ってくれる人、募集しまーす」

「彼女とかじゃなくて⁈」

「もちろん、彼女も募集中」

贅沢ぜいたくなー」

「そう? ところでさ、ユミちゃんにトラブルの事、バレなかった?」

「うん。全然、疑ってないと思う」

「そっか。良かったね」

「少しも僕の可能性はないと思われているのも、微妙なんだけどね」

「なんで。眼中に無いなんてラッキーじゃん」

「そうだけど……トラブルの前で、あんたの彼女は苦労するわーとか、言うんだもん」

「あはっ! ユミちゃんらしいね」

「カッコ悪くて、恥ずかしかったよー」

「そうか、そうか。可哀想にの〜」

「ノエルまでバカにしてー。はい、髪も洗うよ」

「お願いしまーす。他には? ユミちゃんは何か言っていた?」

「僕達、外出禁止だって」

「え! 代表が言っていたの⁈」

「ううん、ユミちゃんが」

「なんだ、驚いた。あー、明後日、帰ったら代表に怒られるんだろうなー」

「え! ノエル、帰国するの⁈」

「何、言ってるんだよー。フランスに行く前に帰るでしょー。僕はギプスを外しに病院だけどさ、テオ達はフリーだよ」

「僕達も⁈ 休み⁈」

「そうだよー。スケジュールを頭に入れておくって言ってなかった?」

「そうか……そうだったんだ」

「その様子じゃ、家族に知らせてないなー」

「うん」

「じゃ。トラブルと、ゆっくり出来るね」

「うん……」

「テオ?」

「うん……」

「聞いてる?」

「うん……」

「熱っ! お湯が熱くなって来たよ!」

「うん……」

「もうっ!」


 ノエルはシャワーを止める。


「テオ?」

「……に……」

「え?」

「トラブルに……」

「うん?」

「トラブルに会える!」

「あー……そうだけど……」

「会える、会える、会える! ノエル、ありがとう!」


 テオはノエルにハグをして、バスタブを飛び出し、タオルで体を拭くのもそこそこに、服を着て、部屋を走り出て行った。


「テオー……明後日は殺人的スケジュールだから、会えるのは明々後日しあさってだけど……ま、スケジュールを見直せば、分かるからいいか……」


 ノエルは熱いシャワーを浴び直す。

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