第172話 真実
代表の視線を浴びながら、トラブルは返事をしない。
「検索履歴を見られたとゼノに騒いだらしいぞ」
……セスは代表の
「ああ、ゼノから聞いた。会社を立ち上げたばかりの俺がパク・ユンホ事務所に出入り出来たわけがなく、お前と出会っていたはずがないと調べていたそうだ」
……。
「ゼノは、俺の親父とパク・ユンホが知り合いで俺とお前も当然出会っていたと説明してセスを納得させたそうだ」
あなたのシナリオ通りですね。
「ふんっ。まあ、ある意味事実だからな。しかし、セスが引くとは思えない。あいつは直感で見抜くんだ、この世のすべての嘘を。嘘だと確信してから証拠を集めるからタチが悪い」
あなたと同じですね。
「いっそ、こちら側に引き込むか?」
いけません!
「冗談だ。もう1人、お前を作る気はない。いいか……」
代表はゆっくりと念を押すように言う。
「セスは、いつか必ず、すべてを知る。だが、今ではない。少しずつ真実を散りばめてセスの気をそらしながら時間を稼げ。セスが薄汚い大人のやり方に心を
……。
「そんな顔するなよ。お前を巻き込んで悪かったと思っている。元凶は、どう考えてもパク・ユンホだけどな」
あなたは平気なのですか。大きな秘密を1人で背負わされて、なぜ笑っていられるのです。
「前にも言っただろ、あの人の為だ。あの人と家族を守る為には何だって耐えてみせる。人は自分以外の者の為には鬼にでも悪魔にでもなれるものだ。セスもそうだ。テオも、ノエルもゼノもジョンも同じだ。テオを使ってセスをコントロールするのは、いいアイデアだ」
テオを使うつもりはありません。
「そうなのか? 純粋な恋愛だと? まあ、それでも構わんが……」
代表のスマホが鳴る。
「さてと、仕事に戻りますか。邪魔したな」
代表はスマホを耳にあてながら医務室を出て行った。
空気の緩んだ医務室にトラブルはホッとする。なんだか無性にチョコレートケーキが食べたくなってきた。
医務室に不在の札を掛け、バイクを飛ばしてテオに教えて
ヘルメットの中でトラブルは奥歯を食いしばっていた。
(元凶はパク・ユンホではない。私だ。私がすべての元凶……)
「最後の手話、何て意味か分かるか?」
医務室から控え室に戻ったセスは、あとから戻ったテオに唐突に聞く。
「最後の手話って?」
「ほら、赤色パスポートと電子パスポートの後」
「えーと、あ、あれか。分からなかった」
「俺もだ。調べているが……。どんな形だった?」
「なんか、始めて見る単語だったよ」
「クソ、何て言ったんだ……」
「セス、これの事?」
ジョンはトラブルの手話を真似て見せる。
「そう!それだ!」
「すごい、ジョン。意味、分かる?」
「『大佐』って言ってた」
「たいさ⁈」
「うん『大佐』 ほら、軍隊とかの」
「大佐……それだけだったか?」
「うーんと『大佐ですか?』って代表に聞いてた」
「セスは唇を読めるんでしょう?」
「俺の位置から代表の顔は見えなかった」
セスは1人、考えを巡らす。
「『大佐ですか』……公用パスポート、一般電子パスポートに変更、身元引受人、大佐、公人、軍隊、徴兵、代表……トラブルは軍人? 代表とトラブルは軍内部で出会っていた? いや、それではフラッシュバックの説明がつかない。失語症では軍に在籍できないはずだ。失語症になる前、チェ・ジオンが死ぬ前から2人は知り合いだった? 日本から来た少女……まさか……」
「セス!」
ゼノがセスの肩を揺さぶり意識をこちらに向けさせた。
「また、仮説を立てていますね?」
「あ、いや……」
「1人で考えていてはいけないと言いましたよね? あれから代表と話しました?」
セスは答えない。
「疑問に思っているなら聞いてみればいいのですよ。まあ、そんな事より早く曲を仕上げろと言われるでしょうけどね」
「セスは何を疑問に思っているの?」
テオが口を挟む。
「……代表が真実しか語らない所」
「ええ⁈」
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