第173話 巨大チョコレートケーキ


「それ以上の真実を俺達に隠している所」

「セス……」


「嘘をかれるよりはマシでは? セスには隠し事は出来ないと代表も思っているわけでしょう。会社の企業秘密とか従業員のプライベートとか、代表には話せない事が立場上多いでしょうし」

「うん、ゼノの言う通りだよ。セスは代表が本当の事を言っていると感じたんでしょ?」

「ああ……」

「僕達には、分からない事をセスは分かってしまうから辛い時もあるけど、でも、少なくとも嘘は言われてない。ね?」


 テオはセスの目を真っ直ぐ見てハッキリと言う。


 セスは、そんなテオの目をまぶしく感じ、目をそらした。


「……分かった。勝手に1人で考え込まないで疑問は聞くようにする」

「良かったー」


 テオのホッとして微笑む顔につられ、セスは少しだけ口角を上げた。


 ゼノとノエルは、セスのいつにない素直な様子に顔を見合わせ驚くが、言葉には出さない。


「おやつが食べたーい!」


 唐突にジョンが叫びながら棚を探す。 


「今日からダイエットと代表に言われましたよね?」


 ゼノが止めようとするが、棚はすでに空っぽになっていた。 


「お菓子もジュースもなくなってる!」

「マネージャーが隠しましたね」

「うえ〜ん、お腹空いたよー!」

「子供みたいに駄々をこねないで下さい」


 ジョンはゼノに厳しく言われるが更に泣き言を続ける。


「でも、確かに小腹が空いたよ」


 ノエルがジョンに助け舟を出した。


「うん、僕も。ダイエットするつもりの昼食じゃなかったから、夜までたないよ」


 年下の3人はゼノに、お願〜いと、ポーズを取る。


「無い物は仕方がないでしょう。マネージャーは出してくれませんよ。買って来る時間もないですし」


「……医務室の冷蔵庫に何かあるかも」


 その場の誰もがセスも小腹が空いたのだろうと疑わなかった。


「セス! 天才! 今日から『魔王』改め『神』と呼ばさせて頂きます!」


 ジョンはセスに深々と頭を下げる。


「そう呼んでたのか⁈」


 セスの突っ込みに、手を叩いて笑うメンバー達。


「では、休憩が終わる前に医務室に行きますか」

「ゼノも、お腹が空いたんでしょー」


 ジョンはゼノを指で差しながらツンツンとつつく。


「はい、実は……ダイエットは明日からにしましょう」

「やったー!」


 ジョンが控え室を走り出て行く。


 追い掛けるメンバー達。階段を駆け下りて廊下を全力で走る。


「いっちばーん!」


 ジョンが医務室の入り口で立ち止まり、後ろからテオとノエルが背中にぶつかった。


「ちょっと、急に止まらないでー……」


 ノエルが言いかけて、口があんぐりと開く。


 医務室のテーブルでトラブルがホールケーキを、はしで食べていた。


 トラブルは、箸をくわえたまま突然の訪問者に目を丸くする。


「なんだ⁈ そのケーキ」


 セスとゼノも驚きを隠さない。


 すっかり家の様に医務室に出入りするメンバー達は、ズカズカとテーブルの周りに集まり、トラブルとホールケーキを見下ろした。


「トラブル、随分と大きいチョコレートケーキですね」

「箸で直喰いかよ……」

「お行儀が悪い!」

「これ、何号? え! 8号⁈ 10人前だよ⁈」

「手伝いまーす!」


 ジョンは嬉々としてフォークを人数分配り、トラブルの横に座り、ケーキに手を伸ばす。


「取り分けないの⁈」


 ノエルはそう言いながらも、すでにテオもフォークを刺していた。 


「んー、美味しー!」


 ジョンの声に我に返ったトラブルは、はしを持ったまま手話をする。


なぜ、知っているのですか? 私が買いに行った事。


「ううん、知らないよ」


 ジョンは首を振りながら口いっぱいにケーキを頬張る。


 ゼノが経緯を説明し、そしてトラブルはなぜケーキを買って来たのかと質問を返した。


「しかも、こんなに大きいケーキを」

「ダイエットで苦しむ僕達の為ー!」


 ジョンがケーキをガバッと口に入れる。


「ダイエット、始めてないじゃん」


 ノエルも食べる。


「トラブル、何かあったの?」


 テオは、こんなに大きなケーキをホールで食べているのには何か理由があるのではと心配になった。


いいえ、代表と話していたらイライラとして無性に甘い物が食べたくなりました。ケーキ屋さんに、このサイズしかありませんでした。


「全部、食べる気だったのか?」


 セスが大きな一口を取りながら言う。


まさか。残りは明日食べようと思っていました。


「半分でも、5人前だよ⁈」


 ノエルは冷蔵庫から水を取り出し、皆に配る。


「豚になるぞ」


 セスはいつもの口を利く。


豚になって困るのは、あなた達です。そろそろ、食べるのを止めて下さい。


「だいたい、なんではしで食ってんだよ」


洗うのが面倒だから。


「ハッ、女の発想じゃないな。豚になったら俺達のトレーナー、クビだからな」


 セスはケーキを頬張りながら、フォークをトラブルに向けて言う。


 トラブルはセスのフォークを素早く奪い取り、シュッとキッチンのシンクに投げ入れた。


「ナイスイン!」


 ジョンの上げた手にハイタッチをする。


「何すんだよ!」


 怒るセスを無視して、トラブルはジョンのフォークも奪い取り、シンクに投げ入れる。


 何もなくなった手を見て、呆然とするジョン。


 笑うノエルとテオのフォークもシュシュッと奪い、抜群のコントロールでフォークはシンクに消えた。


 トラブルはゼノの顔を見る。


 ゼノは「はい」と、自らフォークをキッチンに運び、そのまま洗い始めた。


 トラブルは箸で巨大ケーキを食べ続ける。






【あとがき】

韓国のケーキのサイズ表記を忘れてしまいました。

日本と違っていたような?

最近、記憶が……


皆様、マスク着用はもちろん、おしゃべりは控えめに! 手洗い・うがいをして下さいね。

自分がコロナだと思って行動を!

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