第174話 体重測定


「ずるいよ、トラブルー! 最後に1口ちょうだい!」


 ジョンの、あーんを、無視してトラブルはケーキを箱にしまう。冷蔵庫の棚を一段外し、何とか入れる事が出来た。


「トラブル豚って言うよー!」


 ジョンがセスの真似をして言うがトラブルは取り合わない。


私は太りません。なぜならば、寝る前にストレッチをして毎朝のランニング。エレベーターを使わず、大道具の力仕事をしているからです。


「チョコレートケーキ10人前食おうとしていた奴に何も言われたくないな」


 セスが皮肉を込めて言う。


「トラブル、ダイエットも手伝ってくれる?」


 テオはすがるように言うが、トラブルの答えは “動いて食うな”。


「運動してもその分、食べてはダメって事?」

「それが出来れば苦労しないのですがね」


 ゼノはジョンを見ながら言う。


「なんで僕を見るのさ……え?何?」


 トラブルが医務室の体重計のスイッチを入れて、末っ子の腕を引っ張る。


乗って下さい。


「えー! あれだけ食べさせておいて、ずるい!」

「そうだよ、トラブル。もう少し時間を置いてから……」


では、テオから。


「ぐっ! 僕は体重計恐怖症で……」

「始めて聞いたよ、そんな恐怖症ある?」


 ノエルが笑いながら言う。


では、ノエルから。


「え、僕はー……兄さん方からどうぞ」


 ノエルはゼノの後ろに隠れた。


「ずるいですよ。ノエル」


「バカか。重い時に測っておけば、差が出やすくて結果を出したと評価されるだろ」


 セスは、そう言って自ら体重計に乗った。


 トラブルは記録を取る。


次、ゼノ。


「はい。あー、ケーキ以上に増えていますね」


次は?


「はい、乗ります」


 テオ、ノエル、ジョンと続いて測定を終わらせる。ふと、思いつき、ついでに自分も乗ってみた。


 数値を見て、うわ!と、体重計を飛び降りる。


「何、何、何キロだった?」

「トラブルも記録して!」

「お前も増えてんじゃん?」


いいえ、私は増えていません。


「その顔、嘘だー!」

「もう、一度乗せろ!」


 セスの掛け声で、トラブルは笑いながらテオの後ろに逃げた。


「テオ、捕まえて!」


 ノエルがテオ越しにトラブルを捕まえようとする。


 トラブルはテオを盾にしてノエルの手をかわす。


 後ろからジョンが両手を広げて迫った。


 トラブルは、ひょいっとしゃがみ込み横へ逃げる。ジョンは目を丸くしたままテオに抱き付いて止まった。


 4人vsトラブルの追いかけっこが始まる。 


 狭い医務室でトラブルは逃げ回る。


 そして、その軽い身のこなしに、4人がかりでも触る事も出来ない。


「どうなっているのでしょう?」


 ゼノが早々に諦めた。


「クソッ」


 セスもチッと舌を打ち、追うのを止めた。


「ゼノ、セス、諦めないで! そっちそっち!」


 ノエルとジョンはトラブルを追い続ける。


 トラブルは平然としながら、ジョンの背中で馬跳びをしたり、手の平を上に向け、おいでと、ノエルをあおっては逃げる。


「ちょっと皆んな、やめてよー!」


 テオが両手を広げトラブルの逃げ道を塞ぐ。トラブルはその胸に飛び込み、テオはトラブルごと床にひっくり返った。


 その上にジョンとノエルも勢い余って倒れ込む。


「ぐえ〜」


 3人に乗られたテオが、ヒキガエルの様な声を出した時、マネージャーが入って来た。


「やっぱり、ここにいた! ん? どうしました?」


 床の4人を怪訝けげんそうに見下ろすマネージャー。


 ゼノが1人づつ助け起こして行く。


「トラブル、大丈夫?」


 テオは、笑顔で紅潮した顔のトラブルに手を貸した。


 その時、マネージャーが何かに気が付いた。


 んー? と、トラブルの顔を見て指を差す。


「チョコレートが付いていますね」


「ヤバっ」と、メンバー全員が口を拭く。


 その様子に、すべてを察したマネージャーは「トラブル!」と、怒り出す。


「トラブルは悪くありません」


 テオは守ろうとするが、マネージャーは聞く耳を待たない。


「代表に今日からダイエットと命令されたでしょう! 専属トレーナーが食べさせてどうするのですか! 食べて筋トレしたら身体が大きくなってしまいます! この子達は野獣にならない様に、しかし、完璧なボディラインを求められているのです! 今日は夕飯なしです!」


「ええー!」と、頭を抱える末っ子のジョンと神妙な面持ちでお小言を受ける兄達。


 ゼノとノエルには、セスがヘルシーな夕食をすでに考え始めていると察していた。


トラブルは、いけません。と手話をする。セスが通訳してマネージャーに伝えた。


食事を抜いてはいけません。今夜は、ご飯や麺類は、いつもの半分に。ステーキや卵を食べる様にして下さい。デザートは禁止。お酒は、ビールはダメで焼酎やウイスキーならOKです。


「ダイエット中にステーキ⁈ お酒もいいわけないでしょう!」


 憤慨ふんがいするマネージャーにトラブルはリュックからカードを2枚取り出して見せる。


「体重管理指導士? こっちは管理栄養士?」


はい。私は専門家です。指示に従って下さい。


「う……は、はい。分かりました」


 マネージャーはしぶしぶうなずいた。


「やったー、今夜はステーキだぁ!」


 ジョンはバンザーイと飛び跳ねる。






【あとがき】

うちの猫、触れないんですよ。

そこにいて、おすわりをして私の顔を見ているので、撫でてあげようと手を伸ばしてもヒョイっとよけるんです。

まるでボクサーのように軽く身をかわして……

絶妙な距離でよけるクセに離れてはいかない変な猫なのです。

触れない猫ってお話、書いてみようかしら…?

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