第171話 パスポートの色


「トラブルがツアーに⁈」

「やったー!」


 ノエルは驚き、ジョンは手放しで喜ぶ。


「日本だけですか?」

「トラブルがいいなら……」

「日本って、大丈夫なのか?」


 代表は、5人それぞれの反応を見ながらセスに言う。


「俺もそこが迷う所なんだよ。だから、お前らに相談なんかしている」

「何年ぶりになるんだ?」


 セスはトラブルに振った。


17年です。


「17年……」


 テオがつぶやく。


 代表は続けた。


「トレーナーなしで日本ツアーを乗り切るか、トラブルのトラブルを覚悟して連れて行くか。まあ、仕事だけはキチンと行うと思うが、いかんせんトラブルメーカーだからな。事情を知っている、お前達の負担は計り知れない」


 本人を目の前にしても代表は歯に着せず言う。


「トラブルは、どうなの?」


 テオは黙っているトラブルの様子をうかがった。


正直、分かりません。パク・ユンホと海外を回って仕事をしましたが日本には行った事がありません。……行こうと思った事もありません。


「トレーナーなしはキツイですよ」


 ゼノはメンバー達を見回して言う。ノエルは考えがまとまらないと髪をかき上げた。


「でも、振り付けの先生もマッサージ位は出来るよね?」

「誰も故障しなければいいだけの話だ」


 セスはぶっきらぼうに言った。


「セスは反対なのですね?」

「ああ、俺とテオの負担が大き過ぎる」


 セスの無遠慮な物言いに、テオは愛する人をかばう。


「そんな言い方しないでよ。負担じゃないよ。トラブルが決めていいんだよ。そうでしょ、代表」

「ああ、そうだな。まずは背筋作りからだ。トラブル、お前はMVの制作陣に加われ。日本行きはギリギリで決めればいい」


 代表はソファーに深く座り直し、足を組み直した。


「あと、赤いパスポートの件についてお前達に説明しておく。パク先生から聞いていたのだが、トラブルは実家を飛び出した時、住民登録を書き換えていなかった。パスポートが必要になった時にパク先生の自宅住所に書き換えたが、ビザ申請で住所をさかのぼる事が出来なくてビザの取得が困難だったそうだ。そこで、パク先生は人脈を駆使して公用のパスポートを取りビザを取得した。だから、こいつのパスポートは俺達の緑ではなく赤なんだ。これを、他のスタッフに説明出来ないだろ? 頭を悩ませてる一因だ」


「トラブルは政府に公人こうじんと登録されている?」


 セスが独り言の様に代表に聞く。


「ああ、そうだ。パク先生は手段を選ばない所があったからな」


 トラブルは表情を変えずにうなずいた。


「さあ、仕事に戻れ。お前達は今日からダイエットだ」

「明日からにしま〜す」


 ジョンが元気に手を挙げる。


「お前が1番、ヤバいからな」


 代表に指を差され、ジョンは逃げる様に医務室を出た。


 笑いながら後を追うノエルとゼノ。セスもけわしい顔をして後を追い、出て行った。


「トラブル、本当にトラブルが決めていいんだからね」


 テオはトラブルに念を押すように言い、メンバー達を追いかけて医務室をあとにした。


 トラブルは代表に向き直り手話をする。と、代表が「しっ」と、それを止めた。


 トラブルが振り向くとガラスのドアの向こうでテオが見ていた。


 トラブルは笑顔で手を振る。テオも手を振り返しながら姿を消した。


「ふー……」


 代表がソファーに寄りかかる。


「手話は遠くからでも聞かれてしまうから厄介だな。で? 何を言いかけたんだ?」


セスは代表の嘘だけは暴けないみたいですね。


「ふん、暴かれてたまるか。セスは勘が鋭い。気を付けろよ」


分かっています。


「……お前、セスのパソコンを触っただろ」

(第2章第137・138話参照)


 代表はトラブルに鋭い視線を向ける。

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