第170話 専属トレーナー


(日本ツアーに同行しろ⁈)


 トラブルは手話をするのも忘れて呆然とする。


「前から振付師にノエルの背中が素晴らしいから、一瞬でも見せる事は出来ないかと言われていたが、ノエルのイメージに合わないと突っぱねていたんだ」


ああ、野獣っぽいですからねー。


「なんで、お前知っているんだ⁈ まさか!」


バーカ。


「バカとはなんだ! バカとは!」


で?


「で、いや、だから、なんで知っているんだ!」


セスにノエルとテオとジョンの背筋ダンスの動画を見せてもらいました。

(第2章第117話参照)


「それだよ。その時、ゼノに筋肉のウンチクを披露しただろ?」


背筋の鍛える部位で背中の印象が変わると話しました。


「それだ。振付師は俺に3人の動画を見せた。俺は悪くないとは思ったが、今はメンバー全員の体重が増えているから同じではないはずだと指摘したんだ。そしたら、ゼノから聞いたトラブルのウンチクを言い出して、トラブルなら最高の背筋を作れると、こう来たわけだ」


トレーナーは? 専属トレーナーがいるでしょう。


「辞めた」


へ?


「もちろん後任は決まっているが、実家の都合だか何だかで、ツアーの始まる2週間前から1ヶ月不在になる。だから、日本ツアーだけ同行してくれ……と、俺はお前に頼まなくてはならない。はぁー……」


断って欲しいのですね?


「いや、トレーナーが不在の間は、お前にメンバーのコンディション管理をしてもらわなくては困る。しかし、日本行きとなると……俺は同行出来ないし、お前のパスポートはのままか?」


はい。赤色です。


「公用のままか……それを社内の連中に説明出来ないだろ? お前のメンタル面でも不安だし」


 答えないトラブルに代表は不安を強めた。


「だから、どう考えても日本行きは止めさせた方が賢明だと思うが、あいつらの為には、どうなんだろうかとか、頭がぐるぐるとまとまらないわけですよ。せめて、俺が同行出来ればなー」


パスポートは電子パスポートが発行されたら一般用に変更しようと考えていました。


「それがいい。だが、調査されるぞ」


分かっています。その時は身元引受人になって下さい。


「ああ、勿論だ。……あの人とは、まだ連絡を取り合っているのか?」


大佐ですか?


「ああ。……もう、現役じゃないか」


大佐とはー……


 トラブルが視線を感じて振り向くと、メンバー達が医務室をのぞいていた。


 代表は「お前ら打ち合わせは終わったのか?」と、座ったまま大きな声で聞く。


 トラブルはドアを開けて、どうしましたか?と、手話をした。


「ううん。トラブルの顔を見に来ただけなんだけど、なんか代表と真剣に話していたから……邪魔してごめんね」


 謝るテオに代表は中から手招きをした。


「おーい、お前ら全員、入って来ーい」


 ゼノを先頭に、おっかなびっくり入って来るメンバー達。


「どこから聞いてた?」

「いえ、代表の声は聞こえてません。トラブルの手話はー……」


 ゼノは視線でテオとセスに助けを求める。


「トラブルの手話は、背中とトレーナーと赤色と……あと、なんだっけ?」

「パスポート」


 セスが低い声で答える。


「ん。振付師がお前ら3人の背中を強調したダンスを考えている事は聞いたか? で、ただダイエットしただけではダメで、こいつに最高の背筋を作ってもらいたいと依頼してきた。それ自体は問題ないのだがー……トレーナーが辞めるって聞いたか?」

「え! 聞いていません。来月にはツアーが始まるのに?」


 ゼノがメンバー達の驚きを代表して言う。


「そうなんだよ。後任は決まっている。が、つなぎでこいつに1ヶ月トレーナーをしてもらおうと頼みに来た」

「1ヶ月ですか……」

「そう。で、これは相談なんだが、日本ツアーにトレーナーとして同行させるのは、どう思う?」

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