第57話 白の写真の始まり


「さあ、2人とも、ベッドに入りたまえ!」


 芝居掛かって物凄く楽しそうに叫ぶパク・ユンホに、トラブルは「チッ」と、舌打ちをして、バスローブの前を気にしながらベッドに胡座あぐらをかいた。


 テオも遠慮がちにトラブルの隣に座る。


 キムがモニターを確認しながらトラブルを右向きにさせる。そして、テオもトラブルの背中を見るように同じ方向に向かせた。


「もう少し近づいて。後ろから抱きしめるように」


 トラブルが後ろにずれ、テオも前に行く。


 2人の間をテオの足が邪魔をした。


 キムが、腰から下は布団で隠すので足は自由にしてと、言う。で、もっと近づいてと、手で合図した。


 トラブルは体育座りをして後ろにずれる。


 テオが両足の間にトラブルを挟む様に入れるが「うわぁ」と、ひっくり返りそうになり、トラブルが咄嗟とっさにテオの腕を自分に引き寄せ、なんとかベッドから落ちなくてすんだ。


 トラブルはテオの腕を自分の前で組ませる。


 さらに、テオの両足を自分の体育座りの足の間に入れさせ、テオの胡座あぐらの中にトラブルが座る体勢で落ち着いた。


「よし、いいぞー。2人とも顔だけこっちを向いて」


 パクに言われるがまま左を見る2人。


「ライトを正面から当ててくれ」

「はい」


 パク・ユンホの指示を1人でこなすキム・ミンジュは、すでに額に汗をかいていた。


「よし。バスローブを脱げー」


 パクは心底、楽しそうに声を上げた。


 えっ! と、トラブルは息を飲む。


 テオは素早くバスローブを脱ぐ。そして、トラブルの耳元でささやいた。


「大丈夫だよ。僕からは背中しか見えないから」


 トラブルはテオの声が聞こえたはずだがパクをにらみ続けた。


(トラブルは聞かされていないんだな。ユミちゃんから聞いておいて良かった。今度は僕がリードしなくっちゃ)


「トラブル、大丈夫だから。見えないから」


 テオはトラブルのバスローブに手をかける。トラブルは、意を決した様に紐を解いてそでを外した。


 細い腕をバスローブから抜く時、トラブルの体が前屈みになる。


 テオはトラブルの背中に小さな傷が無数にあるのを見た。


(何だ?)


 思わず見なかったフリをする。


 トラブルはバスローブの袖で胸元を隠した。


 テオは、トラブルに触らないようにトラブルの前で腕を組む。不自然な姿勢に腕がケイレンを起こしそうになって来た。


 プルプルと震えているとトラブルがテオの腕を引き、自分の背中にテオの胸が当たるようにした。


 自然に背後からトラブルを抱きしめる。


「ありがとう」と、テオはささやく。トラブルは、頭をペコッと下げた。


 パクが言う。


「バスローブを下げて。写らないように。テオ、左腕を下げてトラブルの胸を隠して。もっと、ひっつかないと……背中の傷が写るぞ」


(な! パク先生は、この傷を知っているんだ。知っていてこんな事……)


 テオは腕に力を入れてトラブルを引き寄せる。


 トラブルの横顔がパクに怒りをぶつけていた。


(こんな茶番早く終わらせよう……)


 テオはカメラに集中する。


 パクはファインダーをのぞきながら意外な事を言い出した。


「いいぞー、テオ。いい顔だ。君は本当に美しいね。だがね、欲しいのはアイドル・テオの顔じゃないんだ。ルールは3つ。1つ、私の話を聞くこと。2つ、最後までベッドから下りない事。3つ、感情を顔に出す事。まあ、最後はトラブルには難しいかもしれんが、やって見よう」


 トラブルの顔は明らかに怒っている。それにもかかわらず楽しそうに目を細めて見るパク・ユンホ。


 キム・ミンジュはライトの暗がりに気配を消した。


(僕、どんな顔すればいいのー……)

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