第56話 再会


 撮影当日。


 いつものようにマネージャーの車で会社入りする。


 平静を装うなどテオには無理だった。メンバー達は明らかに動揺しているテオを囲むようにスタッフから隠した。


「時間よ」


 ユミちゃんが控え室に迎えに来た。一応、メンバー全員でスタジオ入りする。


 ユミちゃんは緊張するテオを連れてメイク室に消えた。


 スタジオのセットを見るメンバー達。


 真っ白な部屋にベッドが置いてある。壁に窓が取り付けてあるが、外の景色はなく白一色だ。


 言葉を発する者はなく、皆が無言で見ているとパク・ユンホとキム・ミンジュが現れた。


 パクは少し痩せたが、元気そうだった。


 挨拶を交わし「私のわがままに付き合わせて悪いね」と、悪びれず言う。


 そして「もう、1つ頼みがあるのだが……」と、ある計画を話した。


「なんでですか?」


 ノエルが眉間にシワを寄せる。


「代表の条件でね。途中からで構わないから君達をスタジオに入れろとね。で、私はさらに条件を出した。君達がスタジオ内にいる事は、テオとトラブルには秘密にする」


「そんな……」


 ノエルは反対しようとする。すると、セスが低く返事をした。


「 分かった」

「セス!」

「ノエル、途中からでも秘密でも何も分からないよりはマシだ」

「うん……分かった……」


「では、1時間後にそこのドアから入り、パーテーションの後ろにいて下さい。くれぐれも声を出さないように」


 キム・ミンジュが念を押す。


 メンバー達は出て行った。





 控え室で、テオはバスローブに着替えてメイクを受けていた。


 髪のカラーリングスプレーは1色しか用意されていない。


「トラブルは?」


 テオの質問にユミちゃんの目が潤み、鼻が赤くなる。


「トラブルは、もう支度したくが終わってスタジオに入ったわ」

「何で、泣いてるの?」

「トラブルが、すごく辛そうで……白いバスローブも茶色の髪も苦痛でしかないのにパク先生の為に我慢して……」


 ユミちゃんの声は震える。


「可哀想で……私、トラブルが嫌がる事に加担したのよ」

「ユミちゃんが悪いんじゃないよ。トラブルは本当に嫌なら引き受けてないよ。だから、大丈夫だよ。僕がフォローするから。だから、大丈夫だ」

「うん、ありがとう。さ、バスローブを腰まで下ろして。顔からメイクのつなぎめを消して、首と背中に軽くファンデーションするわよ」

「なんで⁈」

「え? 上半身ハダカでしょ? 私の仕事はここまで。パク先生に何をされるか分からないけど頑張って」


(マジかー……)





 一方、トラブルはスタジオ入りの前、トイレで自分の姿を改めて見ていた。


(覚悟して来たが……気分が悪い。今すぐ顔と髪を洗って逃げ出したい。パク・ユンホが私を撮りたがっていたのは気が付いていた。時々、撮られていた事も)


 深呼吸をする。


(なぜ、テオを巻き込んだのか……パクの考えている事は分かっているつもりだったが、病名を告げられてから分からなくなってしまった。今回の件も断わろうとしたのに、テオの名前を出して強引に話を進めて行った。私に強制するなど今まで一度もないのに。何をやろうとしている……?)


 これは今までのわがままと違うと感じた。


 トラブルは息を吐き、腹をくくってスタジオに入った。


 スリッパを脱いでセットの中央に立つようにキムに指示される。


 パクは椅子に座り、頬に手を当ててニヤニヤとしていた。


 照明が暑い。


 スタジオのドアがもう一度開いた。


 光の影の中から、もう1人の自分が現れた。


 同じ髪の色。同じメイク。同じバスローブ。自分よりも背の高い自分と対峙たいじする。


「トラブル、久しぶり」


(これが私の声? いや、いや、これはテオだ。しっかりしろ私)


 トラブルはペコッと頭を下げて目をそらす。





「さあ、2人とも、ベッドに入りたまえ!」

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