第55話 再会の前日


 テオの休みの日が近づいて来た。


 しかし、まだ何の連絡もない。


 マネージャーは、代表しか関わっていないのでパク・ユンホの体調など分からないと言う。


「こんなに長い間、何も分からないなんて台湾の事故の時よりきついよ」


 顔を両手で覆うテオの肩にノエルはそっと手を置く。


「あまり、眠れてないんでしょ?」

「うん……トラブルに寝かしつけてもらいたい」


 ジョンが「僕もー!」と、元気に手を挙げた。


「それ以上寝たら、本当に脳みそが溶けますよ」

「脳みそ、あるのか?」

「ゼノ、セス! ひどい! ノエル助けてよー!」

「脳みそ……あるの?」

「うわぁ〜ん!」


 これには思わずテオも大爆笑してしまう。


 そして、思う。


(代表が皆にも伝えてくれて良かった。僕、1人じゃ不安に耐えられなかったよ。トラブルは1人で耐えているんだろうな……会いたい……早く会いたいよ……)





 2連休の前日、ついに代表が現れた。


「明日、撮影するぞ。キム・ミンジュがアシスタントで付く。ユミちゃんがヘアメイクをする。うちのスタジオを使う。セットはすでにセッティング済みだ。朝、メンバー達と普通にここに来い。通常の撮影のフリをしろ。他のスタッフは何も知らされていない。すべては秘密裏に進める」


 他に何か質問は? と、見回す。そして付け加えた。


「あと、お前らは撮影を見るのは禁止だ」


 メンバー4人を指差し、代表は矢継ぎ早にそう言って出て行った。


「わけが分からないよ。トラブル絡みだとしても、何がそんなに秘密なの?」


 ノエルは不快感をあらわにする。


 さあなと、セスが続けた。


「パク先生の病気はまだ公表されていない。だから、遺作と騒がれる心配はないわけだ。会社の皆に知られても、ただパク・ユンホが気に入らなくて写真はお蔵入りになったとすればいい。それが出来ないのは、やはり、あいつ絡みだからだ」

「私達も撮影に立ち会えないなんて何故でしょう?」  


 リーダーのゼノは腕を組んだ。


 真剣な顔をして考えているゼノに向かい、ジョンはあっけらかんと言い放つ。


「ヌードなんじゃん?」

「バカかっ」


 瞬時に答えるセスにジョンはふくれてみせる。


「なんでバカなのさー」

「パク先生が個人的にヌードを撮りたいならトラブルだけでいいだろ? 何故、テオもなのか。そこが問題なんだよ!」


 ノエルは、トラブルと契約最後の日を思い出していた。


(もしかしたら、トラブルがテオを指名したのかも……トラブルがテオに会いたくて……)


「ねえ、本当にヌードだったらどうしよう……」


 テオは泣きそうな顔をしてノエルの肩に寄り掛かる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る