第54話 余命半年


 パク・ユンホとの契約期間が終わり、それにともないトラブルが顔を出さなくなって2ヶ月の月日が流れていた。


 誰も何も言わず、ただ毎日を忙しく過ごしていた。


 元気がなかったテオは「手話を覚える!」と、目標を立ててセスにレッスンを受けていた。


 ある日、マネージャーが「来月、テオのスケジュール変更があったから確認しておいて」と、メンバー達に伝える。


 スケジュールカレンダーを見ると、テオにだけ2日間の連休がある。


「テオ、どこか行くの?」


 ノエルは聞くが、テオは覚えがないと言う。


 マネージャーを捕まえても、代表に言われただけで詳細は分からないと、答えた。


「代表が、本人に説明をすると、言っていました」

「なんか、怖いなぁー」


 テオは口を尖らせる。





 1週間後。


 予定にはない打ち合わせが入ったと代表はメンバー達が集めた。


 代表は厳しい顔で「まずは、俺の話を聞いてほしい」と、口火を切る。


「パク・ユンホから仕事の依頼があった」


 おー!ついに、キター! と、顔を見合わせて喜ぶメンバー達。


 ノエルがテオをつつく。テオは満面の笑みだった。


 しかし、代表が続けて伝えた内容に笑顔が消える。


「正確に言うと仕事ではない。ノーギャラで引き受けた。この写真は世の中には出回らない。完全にパク・ユンホの個人的な依頼だ」

「どういう意味ですか?」


 リーダーのゼノは困惑するメンバーを代表して聞いた。


「パク・ユンホは……余命半年だそうだ」


 一瞬、何を言われたのか分からない。しかし、代表の真剣な眼差しに息を飲んだ。


 代表は続ける。


「死ぬ前にやりたい事をやる、協力してほしいと連絡をして来た。で、テオを貸してほしいと」

「テオだけ⁈」


 ノエルが叫ぶ様に言う。


 ゼノは落ち着こうと深呼吸をした。


「余命半年とはいったい……?」

「癌だそうだ。イ・ヘギョンさんにもトラブルから連絡が入っていて、彼女の見立ても、トラブルの見立ても医師の診断と同じだと。あと、半年と……」


 代表は言葉を詰まらせる。


「世の中に出ない写真……まさか」


 目を真っ赤にして代表は答えた。


「セス、そのまさかだ。トラブルの写真を撮る。トラブルとテオの写真だ」


 テオは言葉を失う。ノエルが肩に手を回した。


「あの2日間の休みは……」

「そうだ。その2日のうち、パク・ユンホの体調の良い時に撮影をする。テオのスケジュールは元々いっぱいだから完全にパク・ユンホに合わせる事は出来ないと伝えた。トラブルがその2日間になんとか、パク・ユンホの体調を合わせると返事をして来た」


 代表は一息つく。


「この話を、お前らにする理由はテオのフォローをしてほしいからだ。テオだけなら、まだ簡単な話だ。いつもの様に仕事をすればいい。しかし、トラブルと、となると話は別だ。パク・ユンホがどんな写真を考えているか見当も付かんが、テオも少なからずダメージを受ける」


「テオも?」と、ノエルは聞き逃さなかった。


「パク・ユンホは以前からトラブルを写真に収めたいと狙っていた。あいつは拒否していたんだ。それが、今回引き受けたからには相当な覚悟があっての事だと思う。あいつは素人だから、テオがリードしなくてはならない場合もある。トラブルとニコニコ笑って、ハイ、お疲れ様でしたーって、なると思うか?」


 セスが疑問を口にした。


「全くどんな風に撮るつもりか分からないのか? 何ショットくらいとか、屋内・屋外? 顔だけ? 全身? テーマは?」

「分からない。ただ言える事は、この写真は絶対に他人の目に触れる事はない。門外不出だ。パク・ユンホが亡くなっても、その約束はキム・ミンジュが守る」

「そんな口約束で、テオが守れるんですか⁈ キム・ミンジュが売ってしまったら⁈ パク・ユンホの遺作なんて、誰もが高値で欲しがりますよ!」


 語尾を荒げるノエルに、セスもそうだと言う。


「なぜ、テオを遺作に採用したのか。テオと似ている女性は誰か。世間は騒ぐぞ。俺達がトラブルを隠し続けた意味がなくなってしまう」


 代表は少し悲しそうに答えた。


「……そこは、信じてもらうしかない」


 今まで黙って聞いてテオが口を開いた。


「トラブルは引き受けたんですね」

「そうだ」

「なら、僕、やります」


「テオ!」と、ノエルは幼馴染の顔を見る。


「大丈夫だよノエル。代表、僕がトラブルをパク先生から守ります」

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