第226話 ノエル、元気出して


 トラブルはスマホをのぞきながら、床に座る4人に指で 3・2・1と合図を送る。


「ノエルー、僕達は今、何と! トラブルの家で、ご飯していまーす。ごめんねー。ジョン、メニューを紹介して下さーい」


「はーい! まずは味噌ラーメン! 僕の食べちゃったから、セスの写して。次はサムギョプサル! と、切れてないキムチ達!」


「達って何だよ。床で包丁は使いにくいんだっ」


「あとー、焼酎とマッコリと日本酒? 羨ましいでしょー」


「退院祝いもトラブルの家でやりましょう!」


「ゼノ、『も』って何だよ。これは入院祝いなのか?」


「あげ足を取らないで下さい」


「ノエルー、うらやましいなら早く帰って来てねー」


「来てねー。はい、カーット!」


「何でジョンが仕切るんだよー。あ、トラブル本当に止めたの? ま、いいけど…… では、ノエルに送信!」





 

 一方のノエルは、病室で空腹をこらえていた。


 代表は手術の必要がないと分かると売店で軽食とジュースを買い与え、早々に帰ってしまった。


 ノエルは右腕にギプス、左腕に点滴をされ、テレビを見る気にもなれずに天井を見ていた。


 今は、痛み止めが効いて、右手はうずいているだけだが、処置室で骨の位置を直した時の激痛は、2度と経験したくない痛みだった。


 スタジオを出る時のテオの顔が思い浮かぶ。


(泣いていた。責任を感じているだろうな…… 何か声を掛けてあげれば良かった…… テオ、ごめん……)


 枕元のスマホが鳴った。


(テオ…… ん? 動画?)


『ノエルー、僕達は今、何と!……』


(ええ⁈ トラブルの家⁈ うわ、美味しそう! 何だよー、めちゃくちゃ楽しんでるじゃん!)


『ノエルー、うらやましいなら早く帰って来てねー』

『来てねー。はい、カーット!』

『何でジョンが仕切るん……』


 途中で途切れた動画の続きが想像出来るノエルは、1人の病室で声を出して笑う。


 テオに返信を打つ。


『羨ましいよ! 僕の夕飯これだよ⁉︎ 左手で食べにくいし! 退院祝いは、盛大にしてもらうからねー! ちなみに、右手は、こんな感じです』


(ゼノがトラブルに頼んだのかなー。テオが思い付いて、トラブルが協力したのかなー。どちらにしても、楽しそうにしていてくれて良かった……)






「ノエルから返信きたよー」


 焼酎片手に窓から外を見るゼノに、テオが声を掛けた。


 ジョンとセスにも、スマホを見せる。


 そこには、コンビニで買った様なパックに入った海苔巻きと、石膏で固められた右手が写っていた。


「羨ましいだって。退院祝いは盛大にしてだって。元気そうで良かった」

「そうですね。この夕飯は可哀想ですけどね」

「病院のご飯って、こんななの?」

「いや、買って来たんだろ」

「トラブル、そうなの? 夕飯は出ないの?」


 トラブルはスマホの写真を見て、手話をする。


入院時間が遅かったので、明日の朝食からとなったのでしょう。石膏のギプスをしているという事は、骨の位置を修復出来たのですね。


「骨の位置を修復って、手術したの?」


いえ、こうやって押して、折れた骨を真っ直ぐにグイッと。


「いた〜い!」

「ジョン、うるせっ」

「本当に? 本当にノエルは、そんな目にあったの?」

「テオ、泣かないで下さいよ。ノエルは元気そうですから、ね」


もう一度、見せて下さい。


 トラブルはテオからスマホを奪い、ギプスの写真を拡大して見た。


(この位置なら、手関節骨折は免れたか。中手骨骨折…… 何本だろう。自由なのは第1指だけか。まさか、4本とも折れたのか? 修復出来たということは、単純骨折…… 斜骨折? 骨幹部か…… 診断書とレントゲンを見ないと、やはり、何とも言えないな……)


 眉間にシワを寄せる。


(それにしても巻き方が雑だ。夜間帯に突入していたから、まともな医師がいなかったのか?)


「トラブル、何か、おかしい所があるの?」


いえ。よく、痛みに耐えたと……。


「ギプスしてても痛いの?」

「当たり前だろ。食欲が無いくらいだ」

「なぜ、ノエルの食欲が無いと分かるのですか?」

「僕の夕飯これって、食べにくいって言いながら、開けてもいないだろ。利き腕が使えないし、食べる気がしないんだよ」

「この、写真だけで、よくそこまで分かりますねー。感心しますよ」

「ノエル、可哀想。あ、ケーキ出していい?」

「ジョン、本当に可哀想って思っています?ま、食べますけどね」

「トラブル、ノエルは今、どの位の痛みに耐えているの?」


 テオは眉間にシワを寄せ、痛そうな表情でトラブルに聞く。


今は、麻酔に近い痛み止めが投与されているはずなので、それ程、痛くは無いと思います。少し、頭がぼーっとして眠いでしょうね。


「そっか、寝れば痛みを感じないよね。ノエル、いい子で寝なさーい。と、送信!」


『はーい、眠くなって来ました。明日の収録、よろしく頼みます。おやすみー』


「ノエルが明日の収録、よろしくだって。おやすみだって」

「ジョンも眠たそうですね」

「うん、お腹いっぱい。眠い」

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