第227話 品評会


「シャワーは会社で浴びたので、歯磨きをして寝ましょう。あ、ジョン、下着は変えて来ましたか?」

「ううん、パンツ持って来たよー。履き替えさせてー。歯ブラシ持って来てー。歯磨き粉付けてねー。はい、あ〜ん」

「あーんじゃ、ありません! 自分でやる!」

「ふぇ〜ん、お腹いっぱいで苦しいのにー。前は、あのくらいの量なんてペロリだったのにな〜」


 ジョンはいつくばりながら、洗面所に向かう。


 トラブルは呆れて笑いながら手話で言った。


酔っています? マッコリ一杯で?


「ジョンは、お酒が弱いんだよ。でも、飲みたがるんだよねー」

「セスとノエルみたいに、飲める男になりたい様ですよ。憧れている様です。トラブルは、お酒は飲まないのですか?」

「真っ赤になっちゃうんだって。全身」

「酔ったら、暴れそうだな」


 トラブルはセスの膝を思いっきり蹴る。


「痛ってー! 蹴るなよ! ただでさえ振り付けでダメージ受けてんのに!」


あ、忘れてました。


「絶対、分かってて急所を狙っただろ」


見せて下さい。


 トラブルはセスのズボンをまくり上げる。


 セスの膝は片方だけ、内出血班ないしゅけつはんが出来ていた。


 トラブルはセスに軟膏を放り投げた。


「これを塗れって? この位、酒でなおる」


オヤジの発想です。ゼノも見せて下さい。


「誰がオヤジだっ。ゼノの膝も見せろってよ」


 ゼノの膝もセスと同じ位置が青くなっていた。トラブルはゼノの膝に軟膏を塗る。


「何で、ゼノには塗ってやるんだよ」


 ほろ酔いで口を尖らせるセスを横目に、トラブルはテオの膝も見る。


 テオの膝は、両方とも赤紫に内出血しており、一部の皮がけていた。


 トラブルは痛むかテオに聞き、テオは痛まないと首を振る。


 違う種類の軟膏を取り出し、膝に塗ろうとした時、テオが止めた。


「シャワー浴びて来るから、その後の方がいいよね?」


 トラブルはうなずき、テオはバスルームに向かった。


 トラブルは、指に残された軟膏を見る。


(これ、どうしようかな。もったい無いし……)


ジョンは?


「あ? ジョン? 歯磨きだろ?」

「それにしては、遅いですね」

「どっかで寝てんじゃないか?」


 ゼノが立ち上がり、ジョンを探しにバスルームに行く。


 シャワーの音が聞こえる。


 ゼノはノックをして、ドアを開けた。


「テオ? ジョン、います?」

「へ? いないよ」

「あれ、どこに行ってしまったのか……」


 ゼノがバスルームのドアを閉めて振り向くと、ベッドの布団から足が出ていた。


「ジョン! 発見しましたー。寝ています」


 ジョンはトラブルのベッドの上で大の字になり、口を半開きにして寝ていた。


「爆睡だな」

「すみません。トラブルのベッドですよね。ジョン! 起きて下さい! ケーキありますよ!」


ケーキ?


「こいつは食べ物でつると1発で起きる」


ゼノ、起こさなくていいです。レム睡眠に入っているので、覚醒かくせいは困難です。


(あ、そうだ……)


 トラブルは布団をめくり、ジョンのスウェットをまくり上げて膝を見る。


 ジョンの膝はテオよりも赤黒く、両膝の皮がけていた。


 トラブルは指の軟膏を両膝に薄く塗る。


「これは、痛そうですね」

「練習の時からゴンゴン音がしていたからな。消毒してやろうか」


 セスが、持っているコップを傾けて日本酒をジョンの膝にかけようとした。


 トラブルが思わず手を出して止めようとするとコップに手が当たり、日本酒がトラブルの手を濡らした。


「バカっ、本当にやるわけないだろ。もったい無いなー。それ、舐めてみろよ。美味いぞ」


 トラブルはセスに言われるままに、自分の手を舐めてみる。


 「?」と、首を傾げるトラブル。


「水みたいだろ? 甘口の方が酒の味を感じて美味いぞ」


 セスは甘口と書かれた日本酒を注ぎ、トラブルに勧めた。


 トラブルはそれをペロリと舐めた。しかし、うぇーと、舌を出し、水を飲む。


「なんだよー、酒の味がダメなら、さっきの辛口の方が、さらりとして飲みやすいぞ」


 セスは自分のコップをトラブルに渡す。


 クンクンと臭いを嗅いで、一口舐める。


あ、水にアルコールが入った様です。


「だろ? ゼノ、樽酒って飲んだ事あるか?」

「ないですね」

「絶対、気にいるぞ」


 セスを中心に日本酒の品評会が始まった。

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