第17話 嵐の前の静けさ

  


 その日以来、メンバー達はトラブルを見かけると声を掛ける様になった。


「トラブル、おはよう」

「トラブル、行ってきます」

「これ、どう? トラブル」


 トラブルは相変わらず素っ気なく頭をペコッと下げるだけだが、昼の診察に変化があった。


 目の下瞼したまぶたを親指で下げ、両手で耳下腺じかせんを触る。口を開けさせて喉を見る。


 メンバー全員を一通り診察らしくる様になった。


 振り付けの先生から、医療者の目でメンバー達の動きを見てほしいと頼まれ、練習室にも時々顔を出した。


 トラブルは決して出しゃばらない。


 気づいた事があっても、プロ達のプライドを傷付けないように控えめに伝える。


 テオが衣装を着けて練習をしている時、皆とターンのタイミングが合わなくなった事があった。


 どうしても着地で正面を向けない。


「さっきまで出来ていたのに何でだろう?」


 何度練習しても、回転が少し遅れる。


 トラブルは、そんなテオの腰のチェーンを、じーっと見ていた。


 ああ、そうか!と、振付師が気が付く。衣装のズボンに付いている4本のチェーンで遠心力が掛かっていた。


 力のあるジョンはもろともせず回れるし、体幹を鍛えているノエルは、その遠心力の中心に体重移動を瞬時に行うことが出来る。


 ゼノとセスの衣装にはダンスの邪魔になる重いチェーンは、そもそも付いていない。


 振付師はテオのチェーンを1本に外させ、完璧なターンは復活した。




 トラブルが周りのスタッフと上手くやっているのを見ると、なぜか嬉しくなるメンバー達だった。




 ある日「トラブルがいるよ」と、ノエルがメイク室の窓から下の駐車場を指差した。


 全員が窓に集まる。


 眼下では、トラブルが中型のトラックから荷物を降ろし台車に積んでいた。すると、トラックの陰から男が現れ、トラブルを手伝ってその台車を押し始めた。


 乗り切らない荷物をトラブルが持って後からついて歩き始める。


 男が立ち止まり、載せれば?とジェスチャーをして、トラブルは大丈夫と答えているようだ。


 2人でこの建物に入っていく。


「誰だ?」


 セスが眉間にしわを寄せて言う。


「親しげだね」

「最近、見るよ。配送の人でしょ」

「また、変な事にならなきゃいいけど」

「やきもち〜?」


 ノエルがセスをのぞき見る。


「違う」

「セスってば最近、手話の本、読んでるよねー」

「違う。以前から興味があった」

「またまた〜」

「違う」


 じーっと、メンバー達がセスを見つめる。


「…… 違う!」

「何も言ってないじゃ〜ん」


 笑い合う4人。




 台湾行きが1週間と迫り、ますます忙しくなる。


 結局、ゴンドラは台湾スタッフ側からも準備困難と連絡があり、花道を広げてファンとの距離を狭める事で折り合いがついた。


 夜、メンバー達が宿舎に帰る時も、あの配送トラックが停まっている。


 隣には、トラブルのバイク。


 そのバイクを尻目に、誰ともなく呟(つぶや)いた。


「最近、トラブル来ないね……」




【あとがき】

 お疲れ様です。

 なろうで完結していますがあまりにも稚拙な文章で赤面しております。

 初めてなので様々な書き方を試していたり、キャラ設定が定まっていなかったり… こちらで書き直しながら投稿しています。

(相変わらず稚拙ですが…)

 こちらで読んで頂けると嬉しいです。

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