第142話 彼氏って誰。え、僕?


 用件は済んだので『おやすみなさい』と送信する。


『もう』

『寝るの?』

『ごめん』

『呼ばれた』

『出番だ』

『おやすみ』


 今日は確か音楽番組の生放送だったはず。2時間番組の生放送は大変だろうなと時計を見る。


 特にゼノとノエルが。


 セスの塩対応をセスが不機嫌にならない程度に拾い、テオのテオ語を面白おかしく訳し、ジョンがうたた寝をしないように適度な刺激を与える。


 2人の苦労する姿を想像しただけで頭が下がる思いだ。


 自分自身が商品とは、どういう気持ちになるのだろうか。


 アイドル《偶像》とは上手い言い方だ。


(誰がそんな呼び方を始めたのだろう……人類初のアイドルは、どんな人物だったのだろう……)


 トラブルはそんな事を思いながら眠った。






 その少し前。


 控え室でテオはトラブルにラインを打っていた。


「嘘! すぐに既読がついた! 見て、ノエル!」

「トラブル?」

「うん、わっ、返事が来た!」

「そんなに驚く事なの?」

「そんなに驚く事なの! 時間決めてーっと、送信!」

「どれどれ? 12時に迎えに行くか、会社で待ち合わせるか?」

「待ち合わせってデートっぽくてイイかもー」


 テオは送信を続ける。


「会社はやめた方が良いですよ」

「テオ、ゼノの言う通りだよ」

「うん、分かった。よし、送信。11時にバイクで迎えに来るって! スタンプ!スタンプ!スタンプ‼︎」


 テオの勢いはすぐに消える。


「えっ、おやすみなさいだって」

「業務連絡終了だな」


 セスが鼻で笑った。


「もー、ハートくらいくれてもいいのにー」


「スタンバイお願いしまーす」


 番組スタッフの声にゼノは立ち上がった。


「さ、行きますよ。テオ、呼ばれましたよ」


 ゼノの言葉に従うメンバー達。


「はーい。待ってー」


 テオはスマホをしまい、ノエルの後を追う。




 生放送が無事終わり、次の深夜ラジオに出演する為、メンバー達は移動車に乗り込む。


 車の中でテオはスマホをチェックするが、トラブルから新たなラインは来ていない。


「本当に寝ちゃったのかなー」

「今日、引っ越したんだっけ?」


 ノエルがスマホをのぞく。


「うん。カン・ジフンさんのトラックで」

「え、マジ⁈ 2人で⁈」

「たぶん、そう」

「ま、まあ、友達がトラックを持っていたら僕も頼むかな。ね、ゼノ?」

「そ、そうですね。トラブルの荷物は少なそうですし……」


 ノエルとゼノは遠慮気味に目配せをする。


「なんなの2人とも。トラブルが友達と言ってるんだから友達なの。たとえ、カン・ジフンさんがトラブルに好意を持っていたとしても、トラブルは僕の事が好きなので、まったく問題なしです」


「ほおー?」


 セスは意地の悪い顔をして声色を変え、演技を始めた。


「『重そうだねトラブル俺が持ってあげるよ』 荷物を持つ2人の手が重なる。『君の彼氏は手伝いに来ないのかい? なに、仕事? なんて薄情な彼氏だ。俺はずっと君の側にいるよ』 2人の共同作業がつづく。『疲れただろ肩を揉んであげるよ。腰は痛くないかい腰も揉んであげるよ。俺のも頼むよ。ほら、前も……」


「やめて! 変な想像させないでよ! 」


 テオ以外は大笑いをする。


「セス上手ー」


 ジョンが涙目で拍手を送る。


「さすが、芸達者ですね」


 ゼノは内容はともかく心から感心した。


「セス……テッ……テオに悪いよ。プププッ」

「ノエル、笑ってんじゃん! 」

「ごめん、ごめん。だって絶対にカン・ジフンさんが言いそうにないじゃん? セスの設定キャラがおかしくてー」

「そうだよ! カン・ジフンさんはそんな事言いません。彼氏が手伝いに来ないからって……あれ? もしかして彼氏って僕の事?」


 車内の空気が固まった。


 5人が5人とも同じ様に目を丸くする。


 ノエルが息を吸い込んだ。


「当たり前だよ! テオー!」


 超のつく天然の幼馴染の肩をする。

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