第182話 接吻


 トラブルは驚き、目を見開いたままテオを見る。


 テオは一度離れ、そして、再びゆっくりと近づいた。トラブルは目と唇をギュッと硬くつぶり、身構える。


 テオはトラブルの顎を上げさせ、唇を重ねる。その唇でトラブルの唇を食べる様に噛む。


 トラブルはテオの腕にしがみついたまま、力が抜けて行った。


 テオは柔らかくなったその唇を、吸う様に食べ続ける。


(ヤバい、テオ上手い……)


 トラブルの脱力を感じてテオは唇を離し、頭を抱きしめた。


 耳にチュッとキスをする。


 トラブルの体はビクッと反応した。


 テオはフッと笑いながら、耳元でささやく。


「トラブルの弱点、みーつけた」


 トラブルは、もうっと、離れようとするがテオは離さない。


「今夜は深夜ラジオの生放送だからトラブルの家に行けません。明日もテレビ局のはしごで終わる時間は読めないし、来週のMV撮影まで社内にいる事は少ないから、今、ここで押し倒したいけど、もう1時間経っているし、ノエルが困っているだろうし、そろそろ、マネージャーから電話が掛かって来るような気がするし」


 棒読みのテオにトラブルは笑いながら腕を解こうとするが、やはり、テオは離さない。


「えーと、もう少し、おさまるのを待ってくれる?」


 トラブルは眉間にしわを寄せて、テオの顔を見上げた。


「えーと、うーんと、トラブルを抱きしめていたらおさまらないかなぁ。あ、下を見ないでね」


 トラブルはテオの言っている意味に気が付き、テオの顎を、こちょこちょっとイタズラし始めた。


「うう、寝た子を……寝ようとしている子を起こすような真似はやめて下さい」


 トラブルは大口を開けて笑う。


「そんなに、面白い? 僕が困っているの」


 トラブルは大袈裟にうなずいて見せた。


「もう。セスの言う通り、ドSなんだから」


 トラブルは両手を広げ、ガバッとテオの両脇をつかんで、くすぐり始めた。


「!」


 テオは体をねじり逃れようとするが、トラブルは逃がさない。


「ひゃー! やめてー!」


 テオは床に転がり落ちる。


 トラブルは大口を開けて笑いながら馬乗りになり、くすぐり続けた。


「やめてってばー!」


 テオはトラブルの手首をつかみ、体を起こしてトラブルを床に押し倒す。


「こんにゃろめー!」


 テオがくすぐる真似をする。


 トラブルはのけぞって笑いながら、ふと、何かに気が付いた。


 笑顔が消える。


「どうしたの?」


 トラブルは、シッ! と、廊下を指差す。


 床とロールカーテンの隙間から、足が見えた。


 廊下に誰かいる。


見られました。


 トラブルは素早く手話をして体を起こす。テオを医務室の奥にやり、ドアに向かった。


 テオはトラブルを引き止める。


「待ってトラブル。僕が出る」


いけません。


「僕が話すよ。大丈夫。トラブルはここにいて」


 テオはトラブルの制止を振り切って、医務室のドアを勢いよく開けた。

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