第39話 雪山だ


 小休憩後、テレビ収録が始まる。


 リビングでゲームをして、罰ゲームで盛り上がるメンバー達の撮影が続く。


 パク・ユンホは監督の隣で、一緒に笑いながらその光景を写真に収めていた。





 仕事がひと段落したトラブルは自分の部屋に行く。本棟の目の前の別棟で、徒歩30秒だった。


 ドアを開けるとユミちゃん達の熱烈歓迎を受けた。トラブルはメイク女子達の熱い視線からなかば逃げるように、バスルームに入って行った。





「ハイ、OK、お疲れ様でしたー」


 監督の声で収録終了。


「お疲れ様でしたー」と、片付けが始まる。



 メンバー達が部屋へ下がろとした時、ユミちゃんらメイクスタッフ3人が入って来た。手にはトラブルのカメラバックとリュックを持っている。


 トラブルは後から慌てた様子で追いかけて来ていた。


「監督! トラブルの部屋を変えて下さい!」


 ユミちゃんはトラブルの荷物をドサッとリビングに放り投げた。


 トラブルは放り投げられた自分の荷物と、ユミちゃんを見比べて、どうして?と、両手を広げる。


「トラブル、シャワーのあと下着1枚で 出て来るんです!」


 ユミちゃんは腕を組んで抗議した。ソヨンと他のメイクスタッフも、うなずいている。


「だから何だ? 女同士で何が問題だ?」


 監督は意味が分からないと聞き返した。メンバー達も「?」だ。


「今日は忘年会のDVDを見ながら女子会をする予定なのに、トラブル本人がいたら出来ないでしょ!」


 ユミちゃんは怒っている。


「意味が分からん」と、監督は眉間にシワを寄せた。


「だから『キャー キャー』したいの!トラブルがいると恥ずかしいの!着替えも出来ないの!部屋を変えて欲しいの!」


 トラブルはソヨンに手話で訴えるが、ソヨンも「私もトラブルがいると、恥ずかしくてトイレに行けないの。ごめんなさい」と、手を合わせる。


 表情の乏しいトラブルだが、それでも放心状態で立ち尽くす。


「僕の部屋においでよ」


 テオが微笑んだ。


「じゃあ、僕はどこで寝るのさ」


 同室のノエルは、テオをにらむ。


「空いている部屋なんてないぞ」


 監督は困り顔で言った。


 パク・ユンホは大笑いし、ユミちゃんはプンプンしたまま監督に部屋を変えろと詰め寄り続けた。


 監督とユミちゃんが言い争っている時、ふと、トラブルの目が何かを見つけた。


 じっと、それを見つめる。


 監督とユミちゃんの間に入るトラブル。


「トラブル止めないで!」


 悲劇のヒロイン風のユミちゃんを通り越して、セスの元へ向かう。


「わぁ セス、顔が真っ赤ですよ!」


 隣に座るセスを見てゼノが驚いた。


 トラブルはセスの額と首を触り、手話で、いつからですか? と、聞く。


「1時間前から寒気がして急に暑くなりだした」


 セスは力のない声で答えた。


 トラブルはリュックから体温計を取り出し測定をする。


 38.5℃。高熱だ。


 トラブルは監督とマネージャーに向かい体温計を見せて首を横に振る。ふらつくセスを立たせ、支えながらリビングを出て行った。


「あいつは、今夜はセスの看病だな」


 パク・ユンホは薄笑いで頬に手を当てる。


 メンバー達はトラブルのリュックとカメラバッグを持ち、セスの部屋をノックした。返事を待たずにドアをそっと開けるとトラブルが廊下に出て来た。


 荷物を受け取り、同室のゼノの荷物を出す。


 ゼノに、ジョンの部屋に行くように指を差す。そして、メンバー達を引き連れてリビングに戻った。


 ソヨンを捕まえて手話通訳を頼む。


「え、えーと、 セスさんはインフルエンザの可能性があります。部屋に入らないで下さい。風邪薬と、しょうえん? ごめん、トラブル、医学用語は分からないわ。……熱冷ましの薬しかないので、今夜はそれで様子を見ます。明日の朝、また、判断します」


 トラブルは続ける。


「今、体調の悪い方はいますか?」


 全員、首を横に振る。


「今夜は私が付き添います」


 ソヨンの通訳に頭を下げ、トラブルは監督とメンバー達にもペコッと頭を下げて 、セスの部屋へ戻って行った。






《あとがき》

 今ならインフルよりもコロナか⁈ と、大変になるところですが、これを書いた頃はコロナ渦以前でしたので、あしからず。

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