第38話 雪山で


 車列は山を登って行く。


 路面は日当たりの良い所は乾いているが、やはり一部、雪が残っていた。





 コテージは、メインの本棟1棟と周囲の森に点在している別棟で構成されており、すべて貸切になっていた。


 本棟には、ダイニングキッチンと広いリビングがあり、個室が5室ある。


 パク・ユンホとキム・ミンジュで1室。


 残り4室はメンバーとマネージャーで分かれる事になる。


 別棟は、それぞれ5名まで宿泊可能でキッチンも付いていた。


 ユミちゃんとメイクスタッフはトラブルと同じ部屋と知り、大喜びだ。


 スタッフは休む間もなく仕事に取り掛かる。


 テレビ収録のカメラクルーと監督は、部屋のあちらこちらにカメラを固定する。そして、同時に照明、マイクの位置も決めていく。


 写真撮影の一番手はセスだ。


 ユミちゃんはセスに衣装を着せてメイクを施した。


 リビングの外に広いウッドデッキがある。ウッドデッキには、一面、雪景色の庭へ降りられる階段が付いていた。


 庭へ飛びだそうとする年下3人組を、監督が「足跡をつけるな!」と、一喝して止める。





 セスの支度が整った頃、トラブルが入って来た。


 転んではいない様だ。


 パク・ユンホが「どうだった?」と、聞く。


 トラブルは指でOKを作った。


 トラブル、キム・ミンジュ、 セス、パク・ユンホの順にウッドデッキから庭へ降りる。


 ウッドデッキ沿いに左手へ回り込み、庭の反対側へ。


 そこにパクお目当ての撮影場所があった。


 大きな白樺しらかばの林の前に、雪が退けられた1人分のスペースが出来ている。


 パク・ユンホはそこにセスを立たせ、カメラをのぞいて「うん。いいな」と、トラブルに言う。


 この撮影場所を探す為にトラブルは車列より先にコテージに着いていたのだった。


 そして、雪かきも。


 パク・ユンホはキムに、レンズの指示を出す。


 雪が天然のレフ板となっていた。トラブルは戻っていて良いと、パクに指示された。


 ウッドデッキへ戻り、遠くから撮影を見守るトラブル。


 その後ろのリビングの室内から、メンバー達も撮影を見ていた。


「寒そうだね」と、テオは身を震わせた。


「僕達はどこで撮るんだろう」

「違う違う、トラブルだよ」


 テオは雪の中に立つトラブルを指差した。


 トラブルはじっとして動かない。


 時々、パクがよろめくと、ハッと行こうとするが雪に足を取られただけと分かると、また待機している。


 いつもの薄着だ。


 しばらくして、さすがに寒そうに体を動かすようになって来た。


 それを見たテオは外に出る。


「トラブルー」と、言いながら自分のマフラーをトラブルの首にクルッと巻いた。


 トラブルは驚きながらも、どうもと、頭を下げる。


 どういたしましてと、頭を下げ返すテオは笑顔だ。


「これもあげる」と、手袋も差し出す。


 トラブルはその手袋を受け取り、少し考えて片方を返した。


 どうもと 、テオは首を折る。

 どういたしましてと、トラブルは頭をペコッと下げた。


 しばらく並んでセスの撮影を見守るが「寒いっ」と、テオは堪らずリビングに戻っていった。


 戻ったテオに、ノエルが「ちょっと、やるじゃないのテオくん?」と、皮肉めいた顔をする。


「映画のワンシーンみたいでしたよー」


 ゼノがひやかす。


「トラブルも中から見ればいいんじゃん」


 ジョンの一言に「子供だね〜」と、ノエルとゼノが首を振った。





 雪の中のパク・ユンホが何か叫んだ。


 トラブルがウッドデッキから庭へ下りる。


 メンバー達もウッドデッキに出て、何事かと見つめた。


 パク・ユンホがもう一度叫ぶ。


「トラブル! 雪を降らせてくれ!」


 また、この人は無茶を言い出すーと、被写体のセスも遠くで見つめるメンバー達も思ったが、トラブルはそうではないらしい。


 庭の雪を踏まない様に回り込みながら考えている。


 テオの手袋をズボンのポケットに押し込んだ。そして、雪玉を作り、投げる仕草をした。


「よーし、 セス、カメラに集中していてくれ。トラブル、いいぞ!」


 パクの合図でトラブルは大きく振りかぶりー…… 投げたっ!


「届くわけがない、ほら高く上がりすぎた」と、誰もが思った時、雪玉はセスの立っている木の上部にあたり、枝から雪が降り落ちた。


 セスは突然、雪が降って来たので驚いて上を見る。


「セス、カメラを見て!」


 キム・ミンジュが鋭い声を出す。


「いいぞー」


 パクのシャッター音が雪山に鳴り響いた。


「すげー!」と、メンバー達は今見た光景を信じられないと感嘆の声をあげた。


 パクがさらに「もう一度だ、トラブル!」と、叫ぶ。


 トラブルは少し近づき、さっきより大きい雪玉を作った。


 やや右に回り込み、肩を回してウォーミングアップする。


 再び、大きく振りかぶりって、投げた!


 雪玉はブンッと音を立てて放物線を描いた。


 今度は セスの隣の木の上部にあたり、雪玉が割れてハラハラと雪が降る。


 日の光を反射して、セスの周りは妖精の森になった。




「OK。 セス、お疲れさん」


 パクの満足気な声で撮影は終了した。


 トラブルは駆け寄り、パクに手を貸して4人は戻って来た。




「すごいよ、トラブル」


 集まるメンバー達を尻目に、トラブルはキッチンに立つ。


「何があった? 何で雪が降ったんだ?」と、状況の飲み込めないセスが聞く。


 ジョンが興奮しながら、身振り手振りで説明をした。


「この距離を? 嘘だろ?」と、セスは鼻を赤くしたまま言う。


 トラブルは雪に足元の濡れた3人と自分にホットココアを作った。


 セスが「お、マシュマロが浮いてる」と、見せるとジョンとテオは「僕にも作って」と、せがむ。


 トラブルは自分のココアで手を温めながら、キッチンを指差し、どうぞと素っ気ない。


 ユミちゃんが「お疲れさまー」と、入って来た。


「あ、いいもの飲んでる、一口ちょーだい」


 トラブルが返事をする前に奪って飲む。そして手をパンッと叩いた。


「さあ、衣装脱ぐよー。休憩の後、収録だからねー」


 プロ意識の高いユミちゃんは、さっさとスケジュールを終わらせてトラブルとまったりとしたい本音は顔に出さない。


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