第37話 雪山へ


 2月。


 春節しゅんせつを家族と過ごしたメンバー達は、少しふっくらとして戻って来た。


 マネージャー、スタッフらと挨拶を交わし、今年の年間スケジュールの確認を行う。


 来週から北漢山プカンサンで、スチール撮影と冠番組の収録に2泊3日の日程が組まれていた。


「宿泊はコテージです。積雪と天候次第ですが、パク先生は背景を雪景色にしたいそうなので、撮影は屋外と思っていて下さい」


 マネージャーの言葉に「やったー!」と笑顔のメンバーと「寒いじゃん」と渋るメンバーに分かれる。


「テレビ収録は4本撮りです」


 これには全員で「えー……」と言葉を失った。





 週末、ソウルを大寒波が襲った。清渓川チョンゲチョンは凍りつく。





 出発当日、嘘のように天気が回復した。


 乾燥注意報は出ているが日差しが暖かい。


 ユミちゃんは事前にパク・ユンホと、衣装とヘアカラーの打ち合わせを行っていた。


 当日の朝、セスの髪をミントブルーに染める。


 その色を見た最年少のジョンは「僕も、その色にしてー」と、ねだった。


「皆んな、色が決まってるから。楽しみにしててねー。んふふ」


 ユミちゃんは目を細める。


「ユミちゃん、機嫌が良いですね」

「わかる? 今日ねー、トラブルも来るのー。でね、2泊3日一緒に居られるのー。んふふふ」


 ユミちゃんはスキップしながら、鼻唄まじりに荷物を車に積む。メイクチームはユミちゃんを入れて3人が参加することになっていた。


 メンバー達は1台の SUVに乗り込んだ。現場まで約3時間の道のりだ。前後に撮影クルーの車列が並ぶ。


 1時間が経過し、雑談やゲームに飽きてきた頃、メンバー達の後続車が騒がしくなった。


 後ろの車はユミちゃん達だ。


 ユミちゃんは窓を開け、後ろに向かって手を振っている。


 メンバー達も後ろを見た。すると、1台のバイクが近づいて来ていた。


「キャー! トラブル〜!」


 ユミちゃんの黄色い声が聞こえる。


 バイクはユミちゃん達の車に並走して手を振った。


「いや〜ん、カッコいい〜」


 ユミちゃんの声を追い抜いて、メンバー達の車の横を通り抜けた。


「カッコいいなー」と、テオは窓に張り付く。


  セスだけは「あんな薄着で……」と、渋い顔をした。


「セス、お母さんみたいですー」


 末っ子のジョンの笑顔をひとにらみで凍らせる。


 前の車は照明スタッフだった。


 窓を開けてトラブルに何か言っている。トラブルはヘルメットのバイザーを上げ、親指を立てgoodのポーズを取った。


 バイクを加速させ、車列を追い抜いて姿を消した。





 途中の家庭的な店で昼食休憩を取る。


 トラブルはいない。


 ユミちゃん達は、バイクのトラブルを上手く撮れなかっただの、こっちの写真はいいだの、すっかりファンクラブを結成したようだ。


 テオは照明スタッフ達に、トラブルと何を話していたのか聞いた。


「タイヤをスタッドレスに交換したので、滑らないか聞きました」

「なんで? スタッドレスなら大丈夫なんじゃないの?」

「路面が凍っているとスタッドレスでは横滑りするんですよ。スパイクタイヤなら問題ないですが、この先、登り坂で道が凍っていたらアウトでしょうねー。チェーンを積んで行くように言っておいたから大丈夫だとは思いますが」


 バイクに詳しいスタッフは続ける。


「トラブルってバイクの事、何も知らないで乗っているんですよ」

「本当⁈ 」

「なんでも、知り合いのバイクを譲り受けて乗ってるそうで、メンテナンスが出来ていないんですよ。だから、時々、調子が悪くなると俺達の所に持って来るんです。あのバイクは、かなりのジャジャ馬ですよ」

「女が乗るバイクじゃないからなー」

「トラブルだから乗れているんですよ。少しアクセル回すだけで、エンジンの回転数ハンパないですよ、あれ」

「かなり、こだわりのある人が乗っていたバイクでしょうね」


 照明スタッフ達はバイク談義に花が咲く。


 それを聞いたセスは顔を曇らせる。


「どこかで、こけてなければいいけど……」

「やっぱりお母さんだねー」


 ジョンの言葉にメンバー達は笑い合う。


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