第40話 雪山の一夜


 セスはベッドに横になり、苦痛な表情を浮かべて口で息をしていた。


 トラブルはマスクをつけてセスの体温を測る。先ほどよりも熱は上がって来ていた。


 壁の時計を見る。


 スマホで近隣の病院を検索するが、すべて時間外だった。


 インフルエンザの検査キットや抗ウイルス薬は当然だが持ち合わせていない。


 医師のイム・ユンジュに遠隔診療を頼んでも薬を取りに行くだけで、往復6時間はかかってしまう。


 トラブルは苦しそうなセスに水を飲ませる。力なく飲み込むが、吐きはしなかった。


 水分がれるなら、様子を見ても良いと判断した。


 室内の加湿器を最大にして、リビングへ行く。




 リビングには、すでに誰もいなかった。


 薄暗いキッチンで冷蔵庫を開け、保冷剤を探すが見当たらない。仕方がなく食器棚からボールを取り出し、氷水を作って部屋へ戻った。


 タオルを浸し、硬く絞ってセスの額に乗せる。もう1本をビニールに包み、首を冷やした。


「ん……」


 セスが薄っすらと目を開けた。


 トラブルは手話で、薬を飲みますと、伝える。


 弱々しくうなずくセスの頭を支え、薬を口に入れる。


 セスは素直に飲み込み、また入眠した。


(雪の中での撮影が原因だろう。衣装は防寒を考えられてないし、頭から雪をかぶったから……)


 赤い顔で眠るセスの、額のタオルを取り替える。


 トラブルは椅子に座り、腕を組んで目を閉じた。





 深夜12時。


 セスが発汗し始めた。解熱剤が効いてきたのだろう。うーんと、布団をはぐセスを止め、トラブルは掛け直した。


 汗の量が多い。


(今、体を冷やしてはいけない)


 額の汗を拭き取り、発汗がおさまるのを待つ。


 深夜1時。


 セスが目を覚ました。口に水を含ませる。汗は止まったようだった。


 セスのスウェットを脱がし、暖かいタオルで体を拭く。新しいシャツに着替えさせて、もう1度水を飲ませる。


 額に冷たいタオルを乗せ直すと、セスはすぐに入眠した。


 深夜2時。


 セスの寝返りが激しくなる。


 トラブルはセスを揺り起こし、トイレへ連れて行く。横になる前に水を飲ませた。


 寝ているセスの体温を測ると、37.0℃だった。


 深夜3時。


 すやすやと眠るセスの額を触る。熱は上がってはいない。汗もかいていない。


 タオルを外し、布団を掛け直す。





 セスはふと、目を覚ました。


 横を見ると、トラブルが椅子に座ったままベッドにうつ伏せになり眠っていた。


 外はまだ夜明け前の様だ。


 夢うつつのまま、セスはトラブルの寝顔を見ながら、もう1度寝た。





 テオは、隣で寝ているノエルを揺さぶって起こす。


「テオー、まだ6時じゃん。寝かせてよー」

「セスが心配で。一緒に行こうよ」

「もー。しょうがないなー」


 髪をかき上げてベッドを降りた。


 2人は部屋を出て隣の部屋をノックする。


 しばらくしてドアが開くと、顔を出したのはゼノだった。


「あれ、セスの部屋と間違えちゃった」と、テオは舌を出す。


「間違えて早朝に起こされたわけですね」

「その割には早く出て来たねー」

「セスに何かあったかと思ったんですよ。驚かさないで下さい」


 ゼノは不機嫌な声を出した。


 そのやりとりでジョンも起きてしまう。結局、皆でセスの部屋に向かった。


 セスの部屋をノックするが、しばらく待っても応答がない。


 ジョンが力いっぱいノックしようとするのを、全員で全力で止める。


 そーっと、テオがドアを開けた。


 こら、こらと、言いながらもゼノはついて部屋に入った。


 静まり返った室内でセスがベッドで寝ている。


 トラブルはそのベッドに倒れ込み、椅子に座ったまま寝ていた。


 テオがベッドに近づき、これ!と、静かに指差す。


 眠るトラブルの腕にセスが手を添えていた。


 ヒュ〜と、口笛を吹くゼノ。


 その瞬間、ガバッ!と、トラブルが飛び起きた。


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