第41話 雪山の朝


「すみません!」と、ゼノは口を押さえる。


 飛び起きたトラブルは見渡して状況を把握した。


 時計を見上げる。


 ハァと、髪をかきあげて寝ているセスの額に触れた。


 熱は下がっていた。


 トラブルは洗濯カゴにタオルを入れ、ボールの水をトイレに捨ててキッチンに向かう。


 付いて部屋を出るメンバー達。


 手を洗い、鍋に湯を沸かす。湯が沸くのを待つ間、洗濯機にセスの服とタオルを放りこみ回した。


 キッチンへ戻り、手早く野菜を刻んで昨夜の残りご飯と共に鍋に投入する。塩と顆粒だしで味を整え、溶き卵を回し入れれば雑炊の出来上がりだ。


 キッチンのテーブルに、4人分の食器をセッティングして鍋を中央に置く。


 キムチを数品並べて、メンバー達を手招きで呼んだ。


「わぁ、いい匂いだー」

「僕達の分?」

「ありがとうございます」

「いただきまーす!」


 末っ子のジョンの元気な掛け声で、ゼノが皆のうつわに雑炊を取り分けた。


 トラブルは、トレーに1人分を用意していた。


「それ、セスの分?」と、テオはスプーンをくわえて聞く。


 無表情でうなずき、トラブルはトレーを持ってキッチンを出た。




 背中でドアを押して部屋に入ると、セスがベッドから起き上がろうとしていた。


 トレーを置き、背中に手を当てて手伝うトラブル。


 手話で体調を聞く。


「少しだるいけど、だいぶイイ」


シャワーを浴びますか?


「ああ。浴びたい」


 トラブルは、少し待てとセスを制止してシャワーを出してバスルームを温める。


 着替えをセットし、手招きをした。


 セスがシャワーを浴びている間、窓を開けて空気を入れ替え、ベッドのシーツ交換を行う。


 シャワーの音が止まると、窓を閉めて雑炊をレンジで温めなおした。


 セスはベッドではなく、ソファーに気怠けだるく座った。


 トラブルはセスに体温計を渡し、水と皿をテーブルに並べる。


 36.5℃。体温計は平熱を示した。


「いい匂いだ」


 セスは雑炊を食べながら、もっと、ガツンとした物も食べたいと言う。


 トラブルは考えながらキッチンに戻った。


「セスは大丈夫ですか?」


 熱は下がったと伝えると「よかったー」とメンバー達は笑顔を見せた。


 その様子にトラブルは思う。


(他の芸能人に比べて、この子達の絆は強い……)


 冷蔵庫に鶏肉を2枚見つけた。しかし、使って良いものか分からない。


 まあ、小道具ではないだろうと、フライパンを温めてごま油を引き、肉の両面をこんがりと焼く。

 

 焼き目が付くのを待つ間、味噌と酒、みりんで味噌ダレを作り、フライパンの肉の上に回しかけ、周りを少し焦がした。


 焼けた味噌の香ばしい香りがキッチンに充満する。


 手早く切り分けて皿に盛る。


 テオが「僕も食べたい!」と、言う前にトラブルは一皿をメンバー達のテーブルに置き、鍋の雑炊をそれぞれの器におかわりさせて空いた鍋を水に浸ける。


 もう一皿の肉を持って出て行った。


「見て、4当分だよ」

「美味しそうですね」

「美味しい!」

「もっと食べたい〜!」




 セスは雑炊を半分食べたところで手を休めていた。


 トラブルの鶏の味噌焼きを「美味い」と、ペロリと平らげてしまった。


 トラブルから受け取った薬を、何の薬かも確認せずに素直に飲む。


 セスは「横になりたい」と、ベッドに入る。シーツがきれいになっていて気持ちが良かった。


 隣のゼノが寝るはずだったベッドは手付かずだ。


「お前、寝てないのか?」


 大丈夫ですと、手話で答える。


 水をセスの手が届く所に置き、トレーを持って出て行った。




 セスは寝入りながら、トラブルの寝顔を見た気がしていた。


(これは、夢か……?)




 洗濯物の乾燥時間を確認してキッチンに行くと、驚く事にメンバー達が洗い物をしていた。


 トラブルから「それもちょーだい」と、テオがトレーを奪う。


「セスは全部食べられたんだね」

「1人で1枚なんていいなー」

「ジョン、豚になりますよ」

「豚って言うなー!」


 ジョンは濡れた手でゼノを追い掛ける。


 ゼノに馬乗りになり、手の水をピッピッと振りかけた。


「やめてー! 冷たいですー!」


 最年長のゼノの声に大笑いする末っ子達だった。




「お前ら早いなー」と、監督が起きて来た。


 トラブルはペコッと頭を下げ、監督の脇を抜けて出て行った。



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