第439話 ヤンニョムチキンと海鮮チヂミ


 テオは洗面台の鏡の前でポーズを取り、自分の体をチェックしていた。


「別に、何も変わらないな……もう少し、ノエルの体みたいにセクシーになりたいけど……」


 バスタブに入り、シャワーを浴びる。


 体を泡で洗いながら、猛烈な空腹に襲われた。


「お腹空いたー……そうだよ、サンドイッチしか食べてない……あー、気持ち悪くなりそうだ」


 テオは早々にバスルームを出た。


「トラブルー、お腹が……わー! すごくイイ匂いだねー!」


 テオがキッチンに走ると、トラブルは骨付きのチキンを揚げていた。


「やった! 唐揚げ?」


 トラブルは、ボールに入ったタレを指差す。


「ん? タレ? タレを掛けるの? あっ、分かった! ヤンニョムチキンだ!」


 トラブルは笑顔で “正解” と言う。


 揚げたてのチキンをボールに入れ、甘辛のタレをまぶす。


 テオはトラブルに言われなくても、テーブルを拭き、箸を並べた。


「あとは? 何を手伝えばイイの?」


 トラブルは笑顔で手話をする。


休んでいて下さい。


「早く食べたいんだよー。お腹が空き過ぎて気持ちが悪くなりそうで」


 トラブルは甘辛タレのチキンを1つ、テオに差し出した。


「わっ! ありがとう!」


 テオは歯で肉を骨から外し、美味しそうに食べた。骨をしゃぶり、ついでに指もしゃぶる。


「ん〜、美味しいよ〜! もっと、食べたーい」


 トラブルは冷蔵庫から、違うボールを取り出し、中身を熱したフライパンにあけた。


 ジュッと、イイ音がして海鮮の香りがテオに届く。


「うわ、何を炒めているの? チヂミ? 僕、海鮮チヂミ大好きだよー!」


 テオはトラブルを後ろから抱きしめ、フライパンをのぞく。


「あ、アサリも入ってる。大好物だよー。ん〜、好き、好き、好き」


 テオはトラブルの肩にチュッ、チュッ、チュッと、キスをする。


 トラブルはくすぐったいと、肩をすくめ、フライパンを振った。


 海鮮チヂミは宙を舞い、裏返ってフライパンに着地する。


「おー、お見事! イイ色だねー」


 トラブルは、仕上げにゴマ油をフライパンのへりに流し、チヂミを香ばしく焼き上げた。


 フライパンの中で放射線状に切り、そのままテーブルに置く。


 テオはトラブルから離れ、鼻を鳴らしながら椅子に座った。


 トラブルは冷蔵庫からチヂミのタレと、キムチや韓国海苔を取り出してテオに渡す。


 ご飯を茶碗に盛り、トウモロコシ茶と共にテオの前に置いた。


「これ、トウモロコシ茶? うわ、久しぶりだよー! 飲みたかったんだー!」


 テオは、香ばしく、ほんのり甘いトウモロコシ茶に舌鼓したつづみをうつ。


「いただきまーす」


 テオは海鮮チヂミに手を伸ばした。


「美味しい〜。幸せ〜。運動したからたくさん食べなくっちゃ。ねー」


 満面の笑顔を向ける。


 トラブルはうなずきながらも苦笑いをした。


(あれが、運動? 本当、可愛い奴……いろいろ教えてあげようかなぁー)


 チキンの骨を捨てる器がいっぱいになり、テオは満足して指を舐めた。

 

手を洗って来て下さい。


「うん、ご馳走さまでしたー」


 手をパンッと合わせて、しかし、手洗いには行かず、皿を重ねてシンクに運んだ。


 皿洗いを始める。


 トラブルは、いつも自然に手伝いをしてくれるテオに心の中で拍手を送った。


 洗い終わった皿を受け取り、フキンで拭いて棚に戻す。


 テオは残ったキムチにラップを掛けて、冷蔵庫にしまった。


宿舎でも、片付けをするのですか?


「ん? ううん。いつもはセスに『早く、食い終われ』って、お皿を取り上げられちゃうから、セスが洗ってくれる。あと、ゼノかノエルも」


セスは早食いなのですか?


「うん。作りながら食べて、で、片付けをしてから、僕達を追い払って、ゆっくりとお酒を飲みたいみたい。部屋で飲めばイイのにって言ったら、パソコンを見ると仕事がしたくなって、でも仕事中は飲みたくないんだって。ワガママだよねー」


 テオは、セスを責める様子もなく、ほがらかに笑う。


 外は真っ暗になり、川面に対岸の家の灯りがまたたいている。


 テオは窓のブラインドの隙間から、外を眺めた。


「暗くなるのが早くなったなー。もう、夏は完全に終わりだね」


まだ、暑い日は続くそうです。


「そっか……僕ね、夏の始まりの夜の匂いと、夏の終わりの夜の匂いが好きなんだー。分かる?」


……湿度の変化という事ですか?


「湿度? そうか、湿度が変わって夜の匂いが変わるんだ」


(夜の匂い……)


「あ、分かんない顔してる。トラブルは早寝だからねー。……もう、いつもは寝ている時間?」


いいえ。


「じゃあ、いつも、ご飯の後は何をしているの?」


本を読んだり……勉強をしています。


「勉強⁈ あ、ドイツ語の?」


いえ、今は日本の漢字検定試験を受けようと準備中です。


「日本⁈ なんで漢字⁈」


日本で読めない漢字に、たくさん出会いました。私は小3レベルなので。


「充分だよ……そのうち、300ヵ国語くらい話せる様になりそうだね」


現在、300ヵ国はありません。190……


「適当に言っただけだよー。もー、たとえただけー」


たとえに、なっていません。


「う……やっぱり、テレビを買おうよー。映画を見たりとかさー。あとソファーも。部屋を暗くして、ソファーで肩を並べて映画見たりとか、したいなー」


そうですか……。


「うん、彼女の部屋で映画デート! 憧れだよー。ねー、買おうよー」


はぁ。まあ、イイですけど……。


「本当⁈ 今から、一緒に選ぼう!」


 テオはスマホのショッピングサイトでテレビを検索した。


「ここは、広いからさ100インチくらいが丁度イイと思うよ。んーと、これとかどう?」


 テオが選んだテレビは最新型で、値段が5000万ウォン以上した。


 トラブルは、却下と首を振る。







【あとがき】

 5000万ウォンは日本円で約500万円です。

 2人のイチャイチャは続きます。

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