第440話 エッチィ食べ方


「えー、ダメ? 僕が買うよー? んー、じゃあ、これは?」


 テオは違うメーカーのテレビを指差すが、トラブルは無駄使いだと、首を立てに振らない。


 トラブルはメジャーを取り出して、テオの選ぶテレビのサイズに伸ばして見せた。


「うわー、結構、大きいね! イイじゃん!」


 トラブルは、ガクッと首を折る。


テオ、テレビはサイズの3倍の距離から見るのが適正とされています。このサイズだと、あちらの隅から見ないといけません。


「そうなんだー、残念。じゃあ、これは?」


 トラブルは首を振りながら、50インチのテレビを指差した。


「えー、小さいよー。そうだ! ホームシアターを付けようよ! 天井からスクリーンが下りる様にして、こっちにプロジェクターを……どう?」


 トラブルは胸の前でバツを作る。


「もー、買う気がないでしょー。そんなに嫌なら、イイよーだ。べー、だ」


(べーって……仕方がないなぁ)


 トラブルは65インチのテレビを指す。


「これ? これならイイの⁈ やった!よし、100歩譲ってやろう!」


(微妙に使い方を間違っていますよー……)


私が買います。


「え、いいよー。僕が買うよー」


大型の高級品は、別れる時に面倒な事になります。


「な! なんで、別れる前提⁈ ひどいよー。大体、僕は返せなんて言わないよー」


(それは、どうでしょうね)


はい。でも、自分で買います。テレビのある生活は始めてです。


「始めて⁈ 」


施設では、時間を決めて見ていましたが小さい子が優先でした。


「じゃあ、こっちに来てからは?」


テレビはありましたが見せてもらえませんでした。家を出てからは、お金もないし見る時間もありませんでした。


「……バイトとか?」


早朝に清掃のバイトをして、学校が終わったら配達やチラシ配り、で、夜は飲食店で、夜中に帰って宿題をして……。


「いつ、寝てたの⁈ 」


んー、家で1、2時間寝て、あとはバイト中に仮眠を取ったりしていました。


「信じられない……」


でも、不思議と辛くはありませんでした。すべて自分の為でしたし。16才とバレて、アパートを追い出された時は、路上で寝られなくて肉体的にも精神的にもキツかったですが。


「……16才の頃の僕の悩みは、ノエルと学校の帰りに何を買い食いするかって事だったよ」


それはー……大変な悩みですね。


「トラブル! トラブルは、これから幸せになるんだよ! 僕が、絶対に幸せにしてあげるからね! トラブルのテレビの為に働くよ! ソファーを買う為に働くからー!」


ありがとう。でも、自分のモノは自分で買います。今の私には、それが出来ます。それが私の幸せで誇りです。


「そうか……分かった。じゃあ、このテレビでイイんだよね? カートに入れてっと。ソファーは……皮張りは?」


この家は日当たりが良いので、皮張りは熱くなります。冬は冷たいですし。


「そうだね。じゃあ、この青いソファーは? 壁と色が合うよ?」


 トラブルはテオのスマホを見ながら悩む。


 テオは次々とスクロールして見せた。


「白もオシャレだよ。緑は目にイイし。この、オレンジ可愛い! うわ、紫って部屋がセクシーになるね。赤にしよう! この赤、好きだなー」


 世間からファッショニスタと認められている恋人の言葉を無視して、トラブルが指差したのは、黒いソファーだった。


「え! 嫌だ! パジャマも黒なんだから、黒はダメだよー! 合わない! 保護色! 却下! 返品!」


(返品って……)


では、これは?


 トラブルはダークグレーのソファーを指した。テオは黒よりはイイかと、カートに入れ、決算の画面に移る。


「あ、他には? マッサージチェアとか、キムチ用の保冷庫とかは?」


 トラブルは首を横に振り、カードを差し出した。


「僕が買ってあげるのに……」


 テオはブツブツ言いながらカード情報を入力し、トラブルに住所を入れさせた。


 トラブルは、テオ達の宿舎の住所を入力する。


「え、何で? 何で、ここに届けさせないの?」


……カン・ジフンが、この辺りの配送をしています。以前、エリアが変わったと言いに来ましたが、最近、またカン・ジフンのトラックを見かける様になりました。ここと会社の住所は知っているので、自分が届けると言って来るかもしれません。配送会社の指定が出来れば良いのですが。


「そうか、カン・ジフンさんが来ると、何かと面倒なんだね。分かった。受け取っておく」


テオ? テオは明日からフランスですよ?


「あ、そうか。どうする⁈」


(そうかって……)


代表から宿舎の鍵は渡されています。サブマネージャーに受け取りをしてもらい、あとは何とかします。


「配線とかはゼノが得意だよ」


自分もです。


「あ、そうか、トラブルは技術・機材班だったね」


はい。この家の配線は、私がやりました。配電盤を新しくして、配線とコンセントの数を増やして繋げました。


「すごいね……トラブルって出来ない事は無いの?」


……テオみたいに、たくさんの人に愛される事は出来ません。


「それは! それはー……もし、トラブルが僕と同じ仕事をしていたら、僕より人気者になっていたよ」


そうは思えません。


「ううん、トラブルは綺麗だよ。とても綺麗だ。街でスカウトされた事はないの?」


……あります。


「でしょー。背も高いし、目立つもんね」


目立つのは、嫌いです。


「うん。そうだけど、きっとトラブルを愛してくれる人は、これからたくさん現れるよ。だから心は開いておいてね」


全員を受け入れろと?


「えっとー、全員じゃなくてもイイんだけど、そんなに嫌な人じゃなければ、ありがとうって思う様に……うん、僕はしてる」


テオの仕事は特殊です。あなた自身が商品……


 トラブルは言葉を飲み込んだ。


はい。心を開く努力をします。


「努力なんて要らないよー。自然体で、ね」


分かりません。


「もー。いいよ、トラブルはトラブルのままで。どう考えたらイイか分からなくなったら僕が教えてあげる」


はい。


「あー、難しい話をしたら甘い物が食べたくなっちゃった。何かある?」


はい。ケーキを買っておきました。


「ケーキ⁈ やった! 食べたい!」


切りますね。


「あ、切らなくてイイよ。そのままで……」


 テオは冷蔵庫からケーキを取り出すトラブルを手伝い、フォークだけを持って、床のラグに座った。


「こっちに座って。僕が食べさせてあげる」


 テオは箱からケーキを取り出し、箱の上に置く。ケーキはチョコレートケーキだった。


 トラブルは水とティッシュを持って、テオの隣に座る。


「ねぇ、トラブル、覚えてる? ほら、医務室でケーキを食べさせ合いっこした事。あれさ、あの時さ、僕、すごく興奮していたんだよ。覚えてる?」

(第2章第100話参照)


はい。覚えています。


「2人ともすごく、エッチだったよね。で、再現しまーす」


 テオはフォークでケーキをすくい、トラブルに「あーん」と、する。


 トラブルは笑いながら口を開け、ケーキを食べた。


「美味しい?」


 トラブルは口をもぐもぐとさせながらうなずく。


「ここのケーキって、本当に美味しいよね。僕にも、あーん」


 トラブルはケーキをすくうが、その量は先程の3倍はある量だった。


「そんなに大きな塊り、入らないよ!」


 テオは、そう言いながらも大口を開けて食べる。案の定、ケーキはテオの口周りを汚し、テオは目を細めて指でぬぐい取った。


 トラブルも、大きな塊を食べる。


 2人は口の周りにチョコレートクリームを付けて、クスクスと笑い合う。


 そして、どちらともなく、顔を近づけて行った。







【あとがき】

 しばらくイチャイチャが続きます。

 ごめんなさ〜い。


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