第441話 漏れる幸せ


 トラブルはテオの唇をペロッと舐めた。


「美味しい?」


 テオに目の中をのぞかれ、トラブルは顔を赤らめてうなずく。


(うわ、そんな表情始めて見たよ……ヤバ可愛い……)


 トラブルはケーキにフォークを刺し、食べようとしていた。テオは、その手首をつかみ、フォークを自分に向けさせる。


 パクッとケーキを奪って食べた。


 トラブルは、あー! と、ふくれて見せる。


「んふふ……」


 テオは、ケーキを口に含んだまま、トラブルの頭を引き寄せて、キスをした。


 チョコレートにまみれた舌を出し、トラブルの唇を開けさせる。


 舌で舌を探し、テオの鼻息は荒くなる。


(あれ、まさか……?やっぱり⁈ また⁈ )


 トラブルが驚いている間に、テオはトラブルの肩を押して寝かせた。


 スウェットをめくろうとするテオの手をめて、トラブルは手話をした。


まだ、先程の後遺症が残っていて……あの、痛いです。


「痛かったの?」


はい。


「そうなんだ……ごめん。どうすればイイ?」


……部屋の明かりを消して下さい。


「電気を? うん、消すのはイイけど……それでー……濡れるの?」


(バカっ! 全部、言わすつもり⁈)


恥ずかしさが先に立つので、気になります。


「そっか、分かった」


 テオは立ち上がり、部屋の明かりを消した。


(ノエルが言ってた通りだ。こういうのをクリアしてからじゃないとダメなんだな)


 テオはトラブルの元に戻り、優しく聞く。


「ベッドがイイ? ベッドに行く?」


(えーと、ベッドに行きたいのかな? )


はい……。


「ん。じゃあ、抱っこ」


 テオはトラブルをお姫様だっこして、ベッドに勢いよく放り投げた。


「あははー! 驚いた?」


 テオは満面の笑みを見せる。


(もう! キスとの落差がありすぎでしょ!)


 トラブルは怒った顔で起き上がろうとする。


「逃げようとしてもダメー。もう、僕のなんだからねー」 


 テオはトラブルの頭を押さえてキスをする。


 トラブルは『僕の』の言葉に不愉快になった。


(私は、もう誰のモノになるのも嫌だ)


 顔を背け様とした時、テオは頬や額にキスをしながら歌う様にささやいた。


「大好き、トラブル、幸せになぁれ。僕も一緒に、幸せになぁれ。魔法みたいに、ここで笑ってよーねー。カッコイイ僕のトラブル〜」


 トラブルは思わず吹き出して笑う。

 

「何だよー。あ、カッコイイはトラブルの事だからね。僕じゃないからね」


 テオは真面目な顔を向ける。


 トラブルは思わずテオを抱きしめた。


(もう! 本当に何だろう、この子の、この感じ。大きな愛を持っているテオに愛されるなんて……幸せ……そう、私は幸せだ……)


 抱きしめる腕に力を入れる。


 テオは少し戸惑うが、トラブルが喜んでくれていると感じて嬉しくなり、トラブルを抱きしめ返した。


「トラブル、あのね、ノ……」


(あ! ノエルに言われたって言っちゃダメだ!)


「えっと、教えて? 好きな場所とか……」

(第2章第427話参照)


好きな場所ですか?


「うん。その、体の……」


体の好きな場所ですか?


(また、おかしな事を言い出した……)


「うん。耳ってのは知ってるよ。あとはー……どこが気持ちイイ?」


(ああ、そういう意味……って、言えるか!)


……テオが探して下さい。


「探すの? どうやって……ノ……」 


(ノエルと変なビデオ見たって言えない!)


「……すぐに分かるかなぁ。教えてよ」


(の? さっきから『の』って……ノエルか! やっぱりノエルとキスの練習でもして来たのかな?)


ノエルに何を吹き込まれたのか知りませんが、私はテオに探して欲しいです。


「い! ノエルってバレちゃった……あの、少しだけ相談したんだよ。ほら、全然、分からなさ過ぎ過ぎて。だから、あの……」


(すぎすぎて? 動揺しちやって……可愛い。……今度は私が襲っちゃおーっと)


 トラブルはテオの両腕を押して、仰向けに寝させる。


 驚いた顔にキスをした。


「トラブル? 何を……?」


 テオの言葉を無視して、トラブルはキスをしながらテオの胸筋を撫でる。


「ヒッ! ダメ! くすぐったい! やめて〜」


 テオは胸を押さえて転がり笑う。


 トラブルは、舌をしまい忘れた猫の様に呆然とした。


「あー、くすぐったかったー」


 笑ったまま涙目をぬぐうテオに、トラブルは深いため息をいて、その胸に倒れ込む。


(ムードのある感じに、ならないって事は満足しているんだな……)


 トラブルはテオの胸をポンポンと叩き、体をテオから下ろした。


「トラブル? どうしたの?」


こうやって、抱き合うのが好きです。


「そっか。僕も何かを抱いて寝るのが好きだよ。それがトラブルだなんて幸せだなぁ」


そうですね。幸せです。


「トラブル……幸せを分からないって言ってなかった?」


そう……ですね。定義は分かりませんが、何となく……感じます。


「幸せを感じるの⁈ すごいじゃん! なんで? どうして?」


テオの幸せがれて、私を濡らしました。


「僕の幸せ? れてた?」


はい。ダダれです。


「それってー、イイ事だよね? あれ? 僕の幸せが逃げてるの? 減っちゃう?」


いいえ。テオの幸せは減りません。テオには一生分どころか、私の分の幸せまである様です。


「うん、あるよ。僕といればトラブルは幸せなの。そうだよね?」


はい。テオが私を愛してくれているうちは、私は幸せです。


「うん、愛すよ。いっぱい愛してあげる」

 

 テオはトラブルを抱きしめて、そして、耳にキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る