第179話 ボロボロの衣装


 練習を毎日見ていたトラブルは、1番動きの激しいノエルの振り付けをスタイリストとプロデューサーに見せる。


 振付師は、その素人とは思えない動きを目の当たりにし、思わずサビの部分でトラブルと並んでテオのパートを踊り出した。


  2人は始めてのコラボとは思えない、息の合ったダンスを踊りきる。


 プロデューサーが「ブラボー!」と、拍手する。


 スタイリスト達も口々に褒めたたえながら拍手をした。


 代表は机に肘をついたまま、苦笑いで、それでも拍手を送る。


「かなり、上下の動きがありますね」


 スタイリストの1人が言う。


「膝をついて回転する所は、この衣装では背中だけでなく、胸も露出しますね」

「代表、乳首見えたらマズイですよね?」

「当たり前だ。NGだ、NG」

「首元だけでなくウエストも絞って……こうは、どうですか?」

「しゃがんだ瞬間、この辺がヒラヒラすると胸が見えますよ」

「えーと、じゃあ……」


 スタイリスト達はマネキンの衣装をいじりながら、背中の切り開かれた布を閉じて行く。


「あ、だったら……そうそう……」


 プロデューサーも加わり、イメージを擦り合わせて行く。


「すみませんが、もう一度踊って頂けませんか?」


 スタイリストは録画しようとスマホを構えながらトラブルに頼む。


 トラブルは、代表の顔を見た。


 代表は、一つ咳払いをする。


「どうせなら、あいつらに踊らせるのは、どうだ? 仕上がりは?」


 代表はスタイリストに答え、振付師に聞く。


「まだ、完成度は7、8割方ですが、充分、見応みごたえはありますよ」

「決まりだな。よし、練習室へ移動しよう」


 代表は内線でメンバーが練習室にいると確認し、今から向かうと伝える。


 マネキン5体と共に練習室に向かった。




「今から、代表とプロデューサーさんとスタイリストさんと振付の先生が、見に来るそうですよ」


 ゼノが自主練中のメンバーに伝える。


「何の為に?」

「さあ。何の為でしょうね」


「ねぇ、ノエル。どうしても僕の膝にノエルの手が当たっちゃうんだけど、ノエル痛くない?」


 テオが心配顔でノエルの手を取る。


「痛いよ。結構、バンバン当たってるけどテオは痛くない?」

「僕は痛くないけど、ノエルは痛いよね。もう少し離れた方がいいのかなー」

「ジョンとのバランスがおかしくなるよ。大丈夫、僕が手を上か下に伸ばすようにすればいいんだから」

「出来る?」

「任せといて」


 練習室のドアが開き、マネキン5体が入って来た。もちろん、スタイリスト達に引かれながら。


「うわー!ビックリしたー!」


 ジョンが大袈裟にマネキンに駆け寄る。


「このマネキン、ボロボロの服着てるよー!」

「それは、お前の衣装だ」


 代表が最後に入って来てジョンに言う。


「うそ……」


 ジョンは、ヨロヨロとゼノに寄りかかる。


「やっぱり、お母さんに見せられないよ……」


 振付師の号令で、メンバー達は自分のポジションにスタンバイし、曲が始まるのを待つ。


 プロデューサーとスタイリスト達はスマホを構え、録画を開始した。


 練習室内に新曲が流される。


 テオはトラブルが戻って来ない事を振り払う様に、音楽に集中した。


 背中を見せる為と、顔を見せる為の振り付けが続き、テオ達の顔が険しくなる。


 終盤、左右の片膝を交互に立てながらの膝でのターンで、ノエルの手がテオの膝に、また当たった。


 ノエルは痛がる様子もなく、そのまま最後のポーズを決めてフィニッシュ。


 スタイリスト達から拍手が沸き起こる。 


 代表は拍手をしながら、ノエルを手招きで呼んだ。


「今、テオとぶつかっただろ。大丈夫か?」

「あ、少し痛いです」


 代表はノエルの右手を取り、左手と比べる。


「んー、れているな。テオ、ノエルはどこにぶつかった?」

「膝です」

「見せてみろ」

「僕は痛みません」


 テオのスウェットを振付師がまくり上げ、膝を見る。


 テオの膝も赤くなっていた。


「2人とも、医務室に行って来い」

「いえ、僕は痛くないので……」

「はい、行って来ます」


 ノエルはテオの腕を引きながら練習室を出た。


 代表は、残されたメンバーに指示を与える。


「ゼノとジョンは、このまま衣装の打ち合わせに付き合え。セスはプロデューサーとMVの絵コンテを見て、映像と曲のしゃくを合わせろ」


 代表の矢継ぎ早の指示を浴びながら、それぞれが、それぞれの仕事に取り掛かる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る