第238話 信じてる
医務室で2人は向かい合う。
「トラブル……あの、どうして……」
テオはトラブルの手が震えていると気が付いた。
医務室のロールカーテンを下ろし、外から見えない位置にトラブルの背中を押して連れて行く。
「トラブル、本当は怖いんでしょ? ノエルの為に日本に行くなんて言い出したの? そんな事しなくていいんだよ」
……ノエルの母に会いました。
「お母さん? どこで?」
病院で。……お見舞いに行った時。
「お見舞い? そうだったんだ」
(それで、2本ってノエルから聞いたのか……)
とても、優しそうな人でした。
「うん、僕にも良くしてくれるよ。いつも、友達でいてくれてありがとうって言うんだよ。こうやって手を握って」
私の手も握って来ました。
「ありがとうって言われたでしょ」
いえ、お願いしますと…… 息子をお願いしますと、何度も頭を下げられました。
「そうなんだ……」
テオ、母親という人種は、あんなにも…… 必死と言うか、切実に我が子を他人に
「当たりま…… いや、ノエルは特別だよ。ノエル、お兄さんがいるんだけど異母兄弟なんだ。お父さんの連れ子なんだって。ノエルのお母さんと再婚して、ノエルが生まれて、お兄さんにイジメられたって言ってた。お母さんは立場的に兄に強く言えないって、えっと、カニバサミ? 何バサミ?」
板挟み。
「そう、それです。だから僕に友達でいてあげてって言うんだって、ノエルから聞いたことがあるよ」
ノエルも母親の立場を理解していた……。
「うん。お父さんは、あまり働かない人で苦労してるって。あ、これは僕の母から聞きました」
そうですか。私はノエルを
「トラブル、責任なんて感じないで。お母さんって皆んな、そんなものだよ……トラブルのお母さん以外は……」
テオ、そんな顔しないで下さい。これは自分の為でもあります。ノエルに我慢をさせて、安全な場所にいたくない。自分の仕事をやり
「トラブル……僕はファンを優先させるよ。トラブルが苦しんでいても僕は駆け寄ってあげられない。他人行儀で、トラブルに興味が無いってフリをするよ。……それでもいい?」
はい、理解しています。なぜ.泣くのですか?
「僕の事、嫌いにならない?」
なりませんよ! 仕事をするテオを見るのが好きです。遠くからでいいので、私を見ていて下さい。あなたがいるだけで、私は頑張れます。
「頑張んないでよ……」
テオはトラブルを抱き締める。
(テオ、これは私が私に戻る為の儀式なの。ノエルの母の力を借りて、乗り越えてみせる……)
「ノエルがツアーに参加するって発表されたら後戻りは出来ないよ。いい?」
トラブルはテオの胸で
テオは愛する人の髪を撫でた。
「ん? トラブル、いい香りがするね」
さっき、シャワーを浴びました。
「何で? どこの?」
……練習室のシャワーを借りました。
「あそこは、ガラス張りだからダメって言ったじゃん! もー、もっと気を使ってよー。昨日はセスの前で脱ぎ出すしさー」
脱いだ? 自分で? だから下着1枚だったのですね。
「暑がって脱いだの覚えてないの? もー、セスから隠すの大変だったんだからね」
テオに脱がされたのと思っていました。
「そっ、そんな事するわけないじゃん! もー、僕の事なんだと思ってるんだよー」
もー、もー。
「もーっ! バカにしないでよ!」
していませんよ。
「してんじゃん!」
可愛いと思っていますよ。
「だから、それがバカにしてんですー! 僕だって大人の男なんだから、セスみたいに敬意を払って下さい」
セス? セスがテオに敬意を払っている?
「違います。トラブルがー、です」
私がセスに敬意を払っている? 意味が分かりません。
「だって……」
(だって、セスが隠そうとした事に、トラブルは黙って合わせたじゃん……)
だって?
「ううん。もう、いい」
テオ、説明をしてくれないと分かりません。
「あ、なんか言葉を間違えたみたい。だから、気にしないで」
……はい。
「じゃ、僕、もう行くね。代表には伝えておくから」
テオ、待って下さい。誤解があってはいけないので、改めて言います。テオが気絶をして救急搬送された時、私はセスにテオを変えないで欲しいと頼みました。
(第2章第186話参照)
私はテオが好きです。セスではダメなのです。あなたが、いい。
「トラブル……」
(じゃあ、夜中に2人で何をしていたの? どうしてセスの唇は切れたの? セスと何があったの……?)
「うん、信じてる。でも、きっとトラブルの好きよりも僕の好きの方が大きいよ」
(トラブルが思っている以上にね……)
好きが大きい?
「うん、すごーく、いっぱい」
大きいは形容詞で、いっぱいは数を表す……ま、いいか。ありがとう、伝わりました。
「僕も、ありがとう。始めて好きって言われた気がする」
いえ、ちょくちょく言っていますよ。
「そうだっけ? もっと言って」
……恥ずかしいので嫌です。
「じゃあ、もっと恥ずかしくしてやる」
テオはトラブルの唇を奪い、優しく長いキスをした。
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