第270話 呑みたい気分


「わぁ! ゼノ! 驚かさないでよー」

「心理分析ありがとうございます。アイス、買って来ましたよ」

「ごめーん。どこから聞いてた?」

「イライラして飲みたいのかなぁって、所からです。ごめんって事は、悪口を言われていたのですね……」

「違うよー!ゼノの態度を始めて見たからセスに分析してもらってたんだよー」


 ゼノはアイスをしまい、キッチンからグラスを取ってノエルの横に座る。


 皆のグラスにジュースを注ぎ、自分のグラスには焼酎を注いだ。


「完全に焼酎派になったな」

「そうですね。日本酒より癖のある方が好きです」

「普通、周りにオススメしない?」

「ノエルはドクターストップですよ。セスは、飲まないと言ったら飲みませんからね」


「僕に、オススメしてー!」


 ジョンはグラスを構えて、ない尻尾を振っておねだりをする。


「ジョンは、そろそろシャワーを浴びて寝る時間です。明日もハードですよ」

浮腫むくんで顔面偏差値を下げたら、ソヨンにどやされるぞ」


 そうだと、ゼノは思い出した。


「ノエル。ソヨンさんに返事はしたのですか?」

(第2章第244話参照)


「あー……してない」

「なんで?」

「テオ、なんでって言われても……んー、興味がなくなった」


 セスは汚いものを見るような目をする。


「出たぞ、ノエルの悪い癖パート2」

「セス、ノエルの悪い癖って何?」

「こいつは……」

「僕の分析はいいから! ゼノの話をしようよ!」


 ゼノは力なく笑う。


「私の話も結構です。落ち込んでいるので放っておいて下さい」

「イライラじゃなくて?」

「……イライラをマネージャーに向けた自分に落ち込んでいます」


 グラスを空けて、肩を落とす。


「うん、でも、仕方がないよ。具合の悪いトラブルとテオを車に残していたからあせっていたし。正直、あの時のマネージャーは空気読めよって感じだったし」

「ノエル、それでもです。それでも悪い態度でしたよ……」

「そうか? 俺にはカッコよく見えたけどな」

「セス、褒められた気がしません」

「褒めてない。事実を言ったまでだ」

「『私の判断に口を挟まないで下さい』『誰かに管理』……なんだっけ?」

「ノエル、やめて下さいよ」


 ゼノは苦笑いを向けて、酒を口に運ぶ。


「はぁ、明日、マネージャーに謝らなくてはいけませんね。ノエルがいなければ大変な事になっていましたよ」

「殴り合いとか?」

「まさか! そこまではしませんが……幼稚ようちでした」

「どこが? テオみたいに『嫌だっ』とかじゃ、ないじゃん」

「立場を利用したからですよ。説得出来ないのは自分の力不足なのに、マネージャーが聞き分けのない様な構図を作ってしまいました」


 セスは声のトーンを低くした。


「……警戒されているな」

「セスも感じますか。まぁ、今までが、嘘みたいに我々を擁護ようごしてくれていましたからね。あの、マネージャーだから、ここまで個性を発揮出来たわけで……あー、落ち込んで来ました」


 焼酎の瓶を傾ける。


「セス、警戒されているってどういう意味?」


 ノエルとテオは肩をすくめて見せる。


「俺達の中にトラブルっていうトラブルが入って来ただろ。しかも、テオと付き合い出した。いくら代表が認めていると言っても、何年も苦楽を共にして来たマネージャーからすれば、関係の変化に神経をとがらすのは当然だろ」

「ジョンも成人して、次のステップに進もうとしている我々に……戸惑い、焦っているのでしょうね。心配してくれているだけだと分かっているのに……帰れなんて、ひどい事を言いました」


 ゼノは、ため息をきながら、焼酎を飲み干した。


「さぁ、順番にシャワーを浴びて下さいよ。もう、寝ましょう」


 そう言いながらもゼノは動く気配を見せない。ふと、周りを見回した。


「ジョン……ジョンはどこですか?」

「風呂に行ったぞ」

「え? 出て来てない?」


 テオはジョンを探しにバスルームに向かう。


「あー! 信じられない!」


 テオの叫び声で、ノエルがベッドに行くと、そこにはトラブルの隣で爆睡するジョンの姿があった。


「また!またトラブルのベッドで!しかも、今度はトラブルと一緒に!」

「スイッチ切れちゃったんだねー」


 ノエルは大笑いをする。


 ゼノとセスもベッドを見下ろして、呆れて笑い合う。


「笑えないよー!」


 テオがジョンの足を引っ張るが、ジョンはビクともしない。


「テオ、無理だよ。あきらめな」

「ジョンが寝返りを打ったらトラブルが潰されちゃうよー!」


 その時、トラブルが眉間にシワを寄せながら、寝返りを打った。


 ジョンの真横にピタリと抱き付く様に止まる。


「!」

「テオが大きな声を出すから。トラブルが起きちゃうよ?」

「こいつは病人だから床に寝かせるわけにはいかないし、豚は動かせないし。テオ、あきらめろ」


 テオの鼻の穴が大きくなる。


あきらめるとか、そういう問題ではありません! ジョンがシャワーを浴びる前から、ここにはトラブルが寝ていたんだから、ジョンは分かっていてトラブルと寝たって事です!」

「そう? セス、そう思う?」

「いや。髪の毛が、びしょ濡れだから完全な寝落ちだ」


 トラブルは再び寝返りを打ち、ジョンから離れた。


「ほら、騒いでいると起こしちゃうから、僕達もシャワーを浴びようよ。テオ、手伝って」

「うー……」

「テオ、おいで。ねえ、脱がせてよ」

「……うん」

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