第271話 一緒にお風呂

 ノエルはテオに手伝ってもらい裸になる。


 テオも脱ぎ、2人は裸でバスタブにまたがった。


 ノエルは右手を高く上げたままシャワーを浴びる。テオはタオルを泡立て、ノエルの体を洗い出した。


「ねぇ、ノエル、なんでソヨンさんに返事をしてないの?」


 テオがノエルの背中を洗いながら聞く。


「んー、何でだろう。アドレスの渡し方は面白かったんだけど、いつでも連絡出来ると思うとー……いつでも、いいかなって」

「ノエルはさ、遊びで誘ったりしないじゃん。少しはソヨンさんの事、好きと思ったんでしょ?」

「好きの手前だよー。知りたいと思っただけ」

「相手を知りたいのは、好きとは違うの? はい、前向いて」

「うん、違うよ。ソヨンさんは勉強熱心で真面目で、あのユミちゃんと上手くやれるくらい人間が出来ていると思うよ。顔も可愛いし。でも……」

「でも? 次、足あげて」

「簡単に、僕になびいたから……」

「え? どういう意味? 次、こっちの足」


 ノエルはしゃがむテオに足を上げる。


 テオは足の裏も丁寧に洗う。


「もっと、知りたい!って思わせて欲しいんだよ」

「何それ? 意味分かんないんだけど。ここも、僕が洗う?」


 視線を上げた先を指差す。


「自分でやります。なんかさー、簡単だとつまらないんだよねー。ちょっと、触らないで」

「ごめん、手が当たっちゃった。僕の背中も洗って」

「オッケー。多分、僕は大恋愛がしたいんだよ」

「大恋愛?」

「うん。はい、こっち向いて」

「知りたいと思った相手が、ノエルの事を知りたいと思ったら、それだけでもうダメなの? ちょっと痛いよ。強いー」

「ごめん、ごめん。うん、拒否られた方が燃えるというか、絶対好きにさせてやるって思う。まだ、強い?」

「ううん、ちょうどいい。でもさ、頑張って相手を振り向かせたら、それで終わるの?」

「終わらないよー、僕はそこまでひどい男じゃないよ。ちゃんと大事にしますー。頭も洗って」

「高校の時、付き合ってた子いたよね? いつ、別れちゃったの? シャンプーつけるよ」

「あー、中退して舞踊学校に転入した時、彼女に、めちゃくちゃ反対されてさ。で、別れたんだー。もう少し、強く」

「そうだったの⁈ ちっとも知らなかった……」

「言わなかったからね。練習生になってたし会う時間もなくなっていたから、ちょうど良かったんだよ」

「なんで…… 1人で失恋を乗り越えていたの? 相談してくれてもいいのに。トリートメントつけるよ」

「彼女、テオのファンクラブにいたんだよ」

「え!いつの⁈」

「いつのって、高校のだよ。で、テオと仲良しの僕に近づいて来たんだよね。トリートメント多めでお願いします」

「本当⁈ え、まさか僕のファンなのが気に入らなくて別れたとか?」

「違うよ。まあ、始めはテオの事ばかり聞いてくるから、頭にきて対抗心燃やしていたのもあるけど、別れた理由はテオの夢を叶えたいっていう僕の夢を反対されたっていうのが大きいかな」

「夢? はい、終わり。僕も洗って」

「腕、上げてるの疲れるんですけどー。はい、頭こっちに。テオのアイドルになりたいって夢は応援するクセに、彼氏は舞踊学校なんか行かないで大学に進んでくれって、言うんだもん。そりゃあ別れるでしょう」

「そんな事…… あ! 目に入った!」

「男の子でしょ。少しくらい我慢して。はい、流すよ」

「少しじゃないよー。痛いよー」

「片手だから、やりにくいんだよね。終わりー。よく頑張りましたー」

「トリートメントもー」

「はい、はい」

「ねぇ、ノエル、セスが言っていた悪い癖って、それなの? 誰かを好きって言う人を、自分に振り向かせたくなって、その人が簡単に振り向くと、それで満足しちゃうみたいな……」

「んー、自分では、そんなつもりはないんだけどな。でも、知りたいと思うキッカケは、他の誰かを見ている時かな」

「それって、不倫じゃん」

「あ、人妻大好き」

「ダメだよー!」

「なんで、家庭を壊すつもりはないんだから、いいじゃん」

「人のモノを取るのはダメです」

「女性はモノじゃないよ。奥さんが不倫したら、旦那さんにも問題があるって事でしょ? 2人の連帯責任で、僕のせいじゃないもーん」

「……皆んながノエルの事、悪魔って呼ぶ理由が、分かったかも」


 トリートメントでヌルヌルの左手をテオの背中にこすり付ける。


「僕の可愛いテオちゃーん、お尻洗ってあげようか?」

「その呼び方、やめてよー。同い年なのにー」

「子供の頃は洗いあっこしてたじゃーん。このバスタブ、深いからさ、お湯を溜めよう。ほら、お尻ー」

「触らないでよー。子供扱いしないで!」

「ほら、ほら、減るもんじゃなしー、テオちゃーん」

「変態! 変人! 何で『ちゃん』なのさ!」

「可愛いから」

「子供扱いはやめて。立派に成長した成人男性です」

「よく言うよ。トラブルと付き合いだして何ヶ月たったの? 今だにモノに出来ないくせに」

「女性はモノじゃないって、ノエルが言ったんじゃん……チャンスは何回かあったと思うんだけど……嫌がられた。肩が冷えちゃうから、こっちに来て」


 テオは湯がたっぷり溜まったバスタブにしゃがみ込む。


「嫌がられた? テオ、何したのさ」

「え、えーと、少し興奮し過ぎたみたいで、蹴っ飛ばされた」

(第2章第215話参照)


「ええ! いつ⁈ どこで⁈ なんで⁈」

「ノエルが骨折した日……ソヨンさんに僕とトラブルの事がバレちゃった日」

「あー、でも、あの日って1日中ビデオ撮影してて……まさか、テオ。医務室で押し倒したの⁈」

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