第195話 トラブルの本当の気持ち
テオがセスの部屋を出るとリビングに人の気配はなく、明かりは消されていた。
テオは自分の部屋に向かう。ドアの下から室内で人の動く影が見えた。
(トラブルだ)
テオは笑みを浮かべながら、そっとドアを開ける。
テオのベッドの下に毛布を広げるトラブルの後ろ姿が見えた。
テオが背後から抱き付こうとした瞬間、気配に気が付いたトラブルが振り返った。
テオの広げた両手と顔を交互に見るトラブル。
「もう、驚かそうと思ったのに。僕が驚いちゃったよ」
テオは両手を下げて、
トラブルは笑いながら、テオの頭を、よしよしと、
トラブルから、シャンプーの香りがする。
「シャワー浴びたの? いい匂い」
テオはトラブルを抱き寄せ、額にキスをする。
「今は仕事中?」
トラブルはテオを見上げながら手話で答えようとする。
「いや、待って。こんな事、聞いている場合じゃなかった。僕、トラブルに謝らなくっちゃならないんだ」
2人はベッドの下に並んで座る。
「あのね、倒れる前にセスのやり方でトラブルの気持ちになってみたら、僕、本当に
(1色?)
トラブルはテオ語に微笑みながら、謝る必要はないと、手話をする。
私に親はいません。必要だと思った事もないし、これからも必要ありません。親が役に立ったのは高校と大学の入学書類にサインした時だけです。
「また、そんな言い方……いや、ごめん、続けて」
以前は、テオや会社の皆んなと出会えたのは、自分の選択の結果であり、誰かのお陰だなんて思った事はありませんでした。でも、今は、お腹は
「いや、うん、それでいいんだよ。僕もトラブルが生まれて来て良かった。殺されなくて良かった。僕と出会えて良かった」
トラブルはテオの肩に頭を乗せ、目を閉じる。
再び、ソヨンの言葉が頭をよぎる。
『私はトラブルの生みの親に感謝します。トラブルを信じて手放してくれて良かった』
(第2章第112話参照)
(私は捨てられて良かったのかもしれない……)
「あの、トラブル? ちょっと聞きたい事があるんだけど」
テオは自分の手を見ながら、もじもじと緊張して聞く。
「あの、あのね、イム・ユンジュ先生は……友達?」
トラブルはテオの顔を見て、しばらく考える。
友達……では、ありません。
「じゃあ、仕事仲間?」
仕事はしていますが……仲間ではありません。
「上司と部下とか」
上司でも部下でもありません。
「じゃあ、何なの?」
強いて言うなら……はみ出し者同士。んー、運命共同体の方が近いかな……。
「それって、運命を共にする人って事?」
共にするというか、共にして来ました。
「と、と、共にして来たって、結婚とかしてたの⁈」
結婚? してますよ。
「嘘ー!」
嘘ではありません。テオ、何が聞きたいのですか? さっきから質問の意図が分かりませんが、奥様も外科の医師と聞いています。
「え、なんだ、イム・ユンジュ先生の事かー」
イム・ユンジュの何を知りたいのですか?
「ううん、知りたいのはトラブルの気持ち」
具体的に質問して下さい。私の、何の気持ちですか?
「トラブルの、イム・ユンジュ先生への気持ち」
だから、運命共同体だと思っています。
「そうじゃなくて、その……トラブルは先生の事をどう思っているの?」
……? 今、言いました。
「違うよ、僕が聞きたいのはトラブルは先生を好きなのか、どうなのか……」
好きですよ。
「そうなの⁈」
はい、好きです。
「そんな……そうなんだ……」
テオは、頭を思いっきり殴られ、目の前は真っ暗になり、足元はガラガラと音を立てて崩れ落ちて行った。……ような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます