第196話 そのままでいて


 そんなに、驚く事ですか?


「だって、トラブルは……」


(僕の事が好きなんだと思っていたから……)


「れ、恋愛は自由だから。でも不倫は良くないよ。皆んな傷付くし。僕も……」


(僕、勘違いしていたんだ……泣きそう)


テオ。テオ!


「う?」


イム・ユンジュは好きですが、恋愛感情はありません。彼の仕事の仕方が好きです。


「そうなの?」


はい。なぜ、イム・ユンジュに対する私の気持ちを確認するのですか?


「それは、先生がこんな夜中にトラブルの言う事を聞いて、それって、好きなのかなぁって思って。で、トラブルはどうなのかなぁって、カン・ジフンさんと同じなのかなぁって」


カン・ジフン?


(また、カン・ジフンが出て来た……)

(第2章第155話参照)


テオ、ごめんなさい。質問の意味が分かりません。もう、1度言って下さい。


「ううん、もういい。ごめんね、疲れているのに。話が下手で、ごめん」


眠たいですが、疲れてはいません。理解するまで努力するので、もう、1度言って下さい。


「努力なんてしないでよ。本当にもういいんだ。ごめん、大丈夫だから、もう、寝よう」


……はい。


 テオはベッドに横になり、床に座るトラブルと視線を合わせる。


 トラブルはテオの頰に手を置き、テオの目をつぶらせた。


「ねえ、トラブル。僕は、僕のやり方でトラブルを愛すよ。大好きだよトラブル。だから、僕だけを見ていて……僕だけを……」


 テオは夢の中へ落ちて行った。


 トラブルはテオの寝顔を見ながら思う。


(あなたは私の太陽で、私の居場所で、私の存在理由で、私を励ましてくれて……そして、悩ませる。あなたの言葉が理解出来ないのは、私の問題……あなたは悪くない。そのままのあなたでいて。私がそこに行きたいから……)


 トラブルは床のクッションを引き寄せる。


 テオの部屋の色とりどりのぬいぐるみ達と目が合う。トラブルは見下ろされている気がして身震いをした。


 頭から毛布をかぶる。






 翌朝。


 ノエルがテオの部屋のドアに張り付き、耳をすませていた。


「何、やってんだ?」


 後ろからセスが声をかける。


「わっ!セス、驚かさないでよー」


 ノエルはテオの部屋のドアから離れ、小声で説明する。


「そろそろ、テオを起こさないといけない時間なんだけど、トラブルがいるから開けられなくて。ほら、2人でベッドにいたら、まずいじゃん?」

「見てやろうぜ」

「ちょっと、ちょっと、セス! ダメだよ! 僕、2人のラブシーン見ちゃって、平謝りしたんだから」

「見たのか⁈」

「うん、濃厚なヤツ」

(第2章第182・183話参照)


「マジか! やっぱり、見てやろう」

「ダメだってば!」


 ノエルとセスが揉み合っていると、ゼノがトイレから出て来た。


「トラブルなら、朝のランニングに行きましたよ。ジョンと」

「ジョンと⁈」

「トラブルが家を出ようとしていたので、頼んだのですよ。最近、食事制限だけで運動出来ていませんでしたから」

「ジョンが早起き出来たのか?」

「出来るわけがないでしょう。トラブルが起こしましたよ。こう、首筋をグイッと押して」

「ジョン、可哀想に……」

「痛てーと、大きな声を出していましたが、気が付きませんでしたか?」


「よし、これで遠慮なく見てやろう」


 セスはテオの部屋のドアノブに手をかける。その手をノエルが止めて聞く。


「トラブルがいないのに、なんで見るのさ」

「裸かもしれないだろ?」

「なるほどー」


 ノエルはセスの後についてドアが開くのを待つ。


 セスがそっと、ドアノブを回す。


 その時、室内から、ドサッ、ガタッ、バンっと音がして、内側からドアが勢いよく開いた。


「トラブル!」


 テオが叫びながら走り出て、セスと正面衝突した。


「イッてー!」


 2人は床に転がり顔面を押える。


「ちょっとー、大丈夫?」


 ノエルがセスとテオを助け起こす。


「この、バカっ」

「なんだよー、なんで部屋の前にいるんだよー」

「テオ、トラブルがどうかしたの?」

「いないんだよ。昨日、一緒に寝たのに……」

「一緒に寝たのか?」


 セスがニヤニヤしながら聞く。


「え、あ、ううん。僕の方が早く寝ちゃったけど……いないんだよ」


 セスが「なーんだ、つまらん」とキッチンに向かう。


 ちょうど、その時、トラブルとジョンが帰って来た。ジョンは全身汗だくで、ただいまも言えない。


「早かったですね? 1時間くらい走るのかと思ってました」

「ムリ……トラブル、早すぎ……20分でリタイアしちゃった……」


 ジョンはリビングに大の字になる。


 トラブルは、まったくと、肩をすくめながら、洗面所に行った。


 テオが追いかける。


 手を洗うトラブルにテオは声をかける。


「おはよう」


 トラブルは鏡越しに微笑みながら、おはよーと、口パクで言う。


「いなくなっちゃったかと思ったよ」


 トラブルはテオの頰にチュッとキスをして、キッチンで朝食を作るセスと合流した。


「ファンに、気付かれなかった?」


 ノエルがペットボトルの水を渡しながら、ジョンに聞く。


「気付かれた時には、僕らは、はるか向こーうに走り去った後って感じだった」

「そんなに早く走ったの?」

「ダッシュだよ。猛ダッシュ」

「いきなり?」

「そう、準備運動して時計とルートを確認して、では、出発! で、猛ダッシュ。付いて行けなかったよ」

「うわ、マジか。朝走るのってもっと牧歌的ぼっかてきかと思っていたよ。トラブルと走るのは、やめておこう……」

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