第45話 テオ 復活せず


 翌朝7時。


 トラブルは、うーんと、伸びをしてきしむ体を起こした。


 テオは一晩中ぐっすりと寝ていた。今は赤ん坊の様なら顔をして口を開けて寝ている。


 そっと額に触ると、少し熱いと感じた。


 布団の中から冷めたペットボトルを取り出す。


「トラブル……」


 テオが薄っすらと目を開けた。


「だるい…… 頭が痛いよ……」


 体温は37.5℃


 耳下腺じかせんれていないが、のどが少し赤かった。


 トラブルはメモをテオに見せる。


『何か食べて、薬を飲みましょう』


 トラブルは食べる物を探しにキッチンに行く。




 キッチンではフードコーディネーターが朝食の準備をしていた。


 監督と撮影クルーも収録の準備をしている。


 トラブルは監督に、テオが熱を出していると、伝えた。


「何⁈ 今から寝込みを襲って、皆で朝食を作るシナリオなんだぞ⁈ 」


(寝込みを襲うって……)


『とにかく、テオは無理です。ノエルはまだ寝ているので、テオを映さないように撮影をして下さい。テオに薬を飲ませたいので食べる物を下さい』


 そのメモを読んだ監督は「よし、ノエルから先に撮ってしまおう」と、ハンディカメラで部屋へ行く。




 トラブルはフードコーディネーターに許可をもらい、テオの朝食を作った。




 テオは頭の痛みで泣きそうだった。すると部屋のドアがそーっと開き、カメラが入って来る。


 一瞬、頭痛を忘れた。


 口をポカンと開けるテオに、監督は「しー」と、しながら、寝ているノエルの位置を確認する。


 カメラマンにカメラの動きをジェスチャーで伝え、一度外に出る。そして、また入って来た。


 今度は、カメラが回っている様だ。


 ノエルの寝顔のアップを撮り、監督が布団をめくる。


 うーんと、言いながらノエルは目を開けた。


「わっ! 嘘でしょー!」


 布団で顔を隠す。


「おはようございます」


 監督が声を掛けると「おはようございます…… 」と、カメラを眠たそうに見上げて髪をかき上げる。


 その仕草と表情は、すでに状況を把握して作られたものだった。


「次はゼノを起こしに行きます」と、監督。


「あはっ! 僕も行くー」


 ノエルの可愛い寝顔を撮り、監督は満足してカメラを停止させる。


「トラブルから聞いた。今日は寝てろよ」


 この会社のスタッフは座薬を入れてでも働けとは絶対に言わない。そんな暴挙は代表が許さないのだ。


「すみません」


 テオは申し訳なく思いつつ、しかし、この頭痛では笑顔は作れないと布団に潜った。


 ノエルとカメラ御一行はゼノを起こしに向かう為、部屋を出た。すると、入れ違いにトラブルが朝食を持って入って来る。


 朝食の乗ったトレーをテーブルに置き、テオがベッドで起き上がるのを手伝う。


「トイレに行きたい」


 テオがバスルームに行っている間にベッドを整える。


 テオがベッドに戻ると、トレーを布団の上に置いた。


「うわー、美味しそう」


 ワンプレートに緑黄色野菜とトマトのサラダが敷かれ、カリカリのベーコンとソーセージ、トーストしたパンが一口サイズで散らされている。


 ポタージュスープは市販の物だがブラックペッパーの香りが食欲をそそる。


 バナナとオレンジのスライスも添えられていた。


「いただきまーす」


 トラブルも朝食をる。バナナとポタージュスープを立ったまま飲み込んだ。


 テオはパンをスープに浸し「んまーい!」と、平らげていく。


 トラブルはテオの食べっぷりをみながら、パク・ユンホが熱を出すと、食事をさせるのが1番大変になるのになーと、思う。




 廊下では、次はセスの部屋でーすと、ゼノの声が響いていた。




「ごちそうさまでした」


 トラブルは、テオに薬を渡す。


 セス同様、何の薬かも聞かず素直に飲んだ。


(やっぱり、パク・ユンホより何倍も楽だ……)




 俺は病み上がりなんだぞーと、セスの声が聞こえる。




 トラブルは、テオを横にさせ布団を掛ける。そして額を触った。目をつぶるテオ。


「ねえ、トラブル。僕達とずっと一緒にいて」




 キッチンから「ジョン、手伝ってよ」「ジョン、寝るなー!」と、賑やかな声が聞こえる。




「ずっと、ずっとだよ……」


 テオは夢の中へ吸い込まれて行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る