第44話 テオに感染
(さて、どこで寝ようか)
トラブルは考えていた。
さすがに自分の隠し撮り写真が床に散らばる部屋で寝る勇気はない。
リビングのソファーで寝る事にした。
深夜。
リビングに誰か入って来た気配で目が覚めた。トラブルは動かずに薄目でじっと様子を伺う。
その人物は冷蔵庫を開けて何か探していた。
「ないなー……」
それはノエルの声だった。
トラブルは寝たフリを続けるか迷ったが、ノエルが熱心に何かを探しているので何事かと肩を叩いた。
「わぁー! 何だよトラブル、脅かさないでよー! テオが熱っぽいんだよ。冷やしてあげたいんだけど氷がなくて……」
聞き捨てならないと、トラブルはリュックを持ち、ノエルと部屋に行く。
部屋の灯りを点けると、テオは
トラブルはテオを観察してから額に手を当てた。
(汗をかいているのに顔色が悪い。額が冷たい。汗のせいか?)
体温計をはさむため布団をめくると、バスローブにかろうじて腕を通しているだけだった。
「寒いよ」と、テオは震える。
暖房は効いているが、真冬に裸同然で寝ているとは……トラブルは体温を測った。
35.0℃
低体温症にはなっていないが平熱よりも低かった。
トラブルはノエルにメモを書いて見せる。
『状況を詳しく教えて下さい』
「えっと、少し前に暑いって言い出して、汗をかいていたから、冷やそうと思ったんだけど……」
トラブルはノエルに説明する。
『汗が冷えて、体温が奪われたようです。体を温めなくてはいけません。テオの服を出して下さい』
「うん、わかった」
テオにも同じメモを見せる。テオは唇を震わせて聞いた。
「最初は暑くなったのに、なんで?」
『セスの風邪が移ったのかもしれません。熱が出て汗をかき、その汗が乾いて体温が下がったけれど、そのような格好なので保温が出来ずに下がり続けたのでしょう』
「僕、いつも、こんな格好だもん」
テオはふくれてみせた。
ノエルが「テオの服ペラペラのばっかだよ」と、何着か選び持って来た。
トラブルは乾いたタオルでテオの体を拭き、シルクのシャツを選んでテオに着せる。
ペットボトルの水をレンジで温め、テオのお腹に置いた。そして、クローゼットから毛布を取り出して布団の上から掛けた。
ノエルに、マスクをして寝なさいと、伝えて部屋の灯りを消す。
壁の時計は深夜2時を示していた。
自分もマスクをつけて、もう一度、テオの体温を測る。
35.8℃
テオの震えは止まっていた。
布団を肩までかけ直すトラブルを見上げて、テオは不安そうに、しかし、勇気を出して聞いた。
「ねぇ?トラブル。僕、悪い事したのかな? 僕、言ってくれないと分からないよ」
トラブルは昼間の自分の態度の事だと、すぐに理解した。
『あなたは悪くありません。私の問題です』と、メモに書く。
「だから、何がどうして問題なの? 教えてよ、トラブル。昼間は僕を避けておいて、どうして今は来てくれたの?」
『私は』と、書いたトラブルの手が止まる。しばらく考えて一気に書いて見せた。
『仕事をしに来ただけです。もう遅いので寝て下さい』
テオは「でも…… 」と、食い下がろうとする。トラブルはテオの目を
トントントントン…… 。
テオは、すーっと寝入って行った。
その様子を見ていた隣のベッドのノエルが小声で話しかける。
「テオは誰とでも仲良くなれるけど、気安く無断で人の中に入っていく所があって嫌われてしまうんだよ。最近は遠慮を覚えたけど、でも、またやっちゃったかもって、すごく傷付いているんだ。だから何がいけなかったのか教えてあげて」
トラブルはノエルのベッドに座り、ノエルの胸をトントンとしながら、分りましたと、
ノエルも安心した様子で、すっと眠りに落ちて行った。
トラブルはソファーに座る。
(どうして、あんな行動に出たのか自分でも分からない。テオが嫌なんじゃない。説明してあげたいけど、分からないよ。ただ、嫌だと感じた……)
ふと、セスの顔が思い浮かぶ。
(なぜ、セス?)
睡眠不足だと、頭を振ってソファーに横になる。
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