第25話 台湾コンサート3日目・テオとテオ
聞き覚えのある……僕達の曲だ!と、メンバー達は身を乗り出す。
舞台に5人の男達が立った。
歌い出しと同時に激しいダンスが始まる。
センターはテオだ。テオが踊っている。他は機材スタッフだ。
あれ? テオ…… ? と、メンバー達が振り向くと、そこにもテオがいた。
テオの口は、ぽかーんと開いている。
「テオが2人いる! 」
「そっくりじゃん!」
「見て! ジョンも似てるよ!」
「本当だ!あれ、配送の人じゃん!」
舞台上の5人は、メンバー顔負けのキレッキレのダンスを披露していた。
わぁ!と、会場が沸く。
それぞれ、口パクだが表情まで完コピだ。
特にテオが、メイクも金髪も表情も本人そのものである。
「テオがテオだぁぁ!」
「誰あれ⁈ そっくりさん⁈ 」
メンバー達が驚いていると、メイクの女子達から「キャー、トラブル〜」と、黄色い声援がとぶ。
「え⁈ トラブル⁈」
「嘘でしょ⁈」
ユミちゃんはじめ、メイク女子達の声は止まらない。
「キャー、カッコいい〜!テオー!」
「こっち向いて〜!」
いや、いや、本物ここにいますけどと、テオの口は塞がらない。
トラブルら大道具機材スタッフはサビのタイミングも腕の角度も完璧だった。
「あの腕の角度、合わせるのに結構苦労しましたよね……」
「テオ……じゃなくてトラブルのダンス、すごく上手だよ」
女子達の声援にウインクで応えるトラブル。
ユミちゃんは失神寸前だ。
「あれ、本当にトラブルですか?」
「あんな表情するの?」
「テオより、カッコいいじゃん!」
「否定できません……」
横一列に並ぶと、周りと比べてテオ(トラブル)の背の低さが見て取れる。
ラスト、背中を向けてポーズ。
宴会場に大歓声が上がる。
代表もパク・ユンホも大笑いで拍手を送っていた。
司会がマイクを持って舞台に上がる。5人は横一列に並び、一礼した。
鳴り止まない拍手の中、トラブルは息も乱さずに、いつもの無表情に戻っている。
肩で息をしながらゼノ役が司会の質問に答えた。
「1か月前にトラブルから、やろうと言われ、出来るはずないと。1人足りないし。無理だと断ったのですが、彼を連れて来て」と、ジョン役を指す。
「メイクさんや音響さん照明さんと話しはつけてあると。すべてトラブルが1人で動いたんです」
「……ねぇ、見て。トラブルが何かしてるよ」
ノエルがテオの袖を引く。
トラブルは、まだキャーキャーと言っているユミちゃんに向かい、腕時計を
何か合図を送っているようだが、ユミちゃんは気が付かない。
司会が、トラブルさんの功績なのですねと、話を振る。
トラブルはゼノ役に向かい、頰をなでる動作をして見せた。
「あ!メイクさんには苦労をお掛けしました。なるべくメンバーに似るようにと、メイクと髪の色を工夫して頂き、衣装もすべてやって頂きました。1番の功労者はメイクさん達です」
トラブルは繰り返し合図を送っているが、ユミちゃんは「やっぱり、あの髪の色で正解だったでしょー」と、まったく気が付かない。
ゼノ役はジョン役を一歩前に出す。
「彼は配送業者のカン・ジフンさんです。彼は1から踊りを覚えなくてはならなくて、大変苦労しました。トラブルはとても厳しくて、夜中まで毎日練習しました」と、マイクに言う。
前方のスタッフがトラブルの合図に気付き、ユミちゃんに知らせた。
あ、忘れてたーと、ユミちゃん達は「アンコール!アンコール!」と、手を叩き始める。
「ファンからアンコールが出てますが? あ、あるんですね。では、アンコールお願いします」
司会の言葉に、2曲目⁈ マジか!と、大笑いのメンバー達。
舞台上で、5人が出だしのポーズをとる。
セスのラップからスタートした2曲目はスローテンポの曲だった。
またも、完コピだ。
テオ役のトラブルはテオそのものだし、ジョン役の彼もなかなか似ている。
他のスタッフもリハーサルモデルをやっているだけの事はあり、特徴をつかんでいた。
ユミちゃん達はファンの掛け声の完コピだ。
2曲目なので、メンバー達も冷静に見る事が出来た。
「本当に上手いな」
「うん、すごく踊り込んでるね」
「他の人の動きも把握していますね」
「ぶつからないもんね」
サビの腰クネクネに会場は沸く。
「いいぞー◯◯!」と、声が飛ぶ。
最後のサビ部分。ジョンのジャンプが見せ場だ。ところが、一歩下がるジョン役。
メンバー達が「?」と思った瞬間、左背後のトラブルが
うおー!と、盛り上がる会場。
そして、トラブルはスッと元の立ち位置に戻った。
「なんで、戻れるの⁈」
ノエルが叫ぶ。
完璧な群舞を披露して終了した。
さすがのトラブルも肩で息をしている。
衣装を着てライトを浴びると想像以上に消耗するのだ。
他のスタッフは舞台上で座り込んでいる。
司会がマイクを向けるが、待ってと、ジェスチャーで伝えるのがやっとだ。
何とか皆、立ち上がり、一同礼。
拍手が鳴りやまない。
ゼノ役が、何でお前立っていられるの?と、聞いているがトラブルは無表情に戻っていた。
代表が舞台に上がり、1人1人と握手する。
トラブルとは、しない。
「今回のイベントを聞き、最初は反対しました。しかし、チーフメイクのユミちゃんと、カメラさんに説得されました。絶対見た方が良いと。いや、素晴らしかったです。この一体感、最高ですね。来年も恒例の社内イベントにしましょうか?」
わー!と、沸く会場。
代表は拍手を受けながら、舞台を降りた。
ゼノ役が「最後に1ついいですか?」と、マイクを取る。
「トラブル、トラブル」と、トラブルを舞台中央に引っ張った。
無表情だが、何だ?と、思っているのが分かる。
「テオにそっくりでしょ?」
会場から拍手が沸く。
「顔真似もさらに、そっくりなんですよ。カメラさん、トラブルの顔をぬいてスクリーンに出せます?」
パッと後ろのスクリーンにトラブルの顔がアップで映る。
アップにして見ても、美少年のテオにそっくりだった。
おー!と、会場。
トラブルは後ろを振り返り、自分の後頭部を見る。そして、ゼノ役を
ゼノ役はお構いなしに「1.2.3」と、合図を送る。
トラブルは、少し左上を見上げて手でVサインを作り、顔の前にあてて視線はカメラに送る。
テオのお馴染みのポーズだ。
ユミちゃん達だけでなく、女子のキャーが半端なく飛ぶ。
トラブルはすぐやめてしまい元の無表情に戻っているが、女子は、今の画像ちょうだい!買うから!と、大騒ぎだ。
代表とパク・ユンホは大爆笑し、イ・ヘギョンさんは笑いながら涙を拭いている。
「本人より、本人っぽいよー」
「まだ、信じられない」
「本当にトラブルなの?」
司会の流れで退場するトラブル達。
ユミちゃん達もキャーキャーと騒ぎながら楽屋へ向かった。
しばらくして、機材スタッフは拍手を受けながらテーブルに戻って来る。
メンバー達に挨拶をして、カン・ジフンですと、ジョン役を紹介した。
挨拶を返すメンバー達。
代表が最後の挨拶に立つ。
「えー、テオ、お疲れ様でした。いつ故障してもいいよ」
「シャレになってないしー」と、テオは苦笑いするしかない。
「冗談はさておき、来年は……」
真面目な挨拶で会を閉めた。
司会が二次会の案内をする。
メンバーとスタッフ達は二次会会場へ移動をした。
「トラブルは?」と、テオが見回す。
「明日、試験だから早く帰るって、うちの新人のソヨンちゃんと帰ったわよ」と、ユミちゃんが言う。
「そうだ。明日、試験って言ってたっけ」
「金髪のままで良いのですか?」
「うん、シャワーで流せば大丈夫だから。トラブル最高だったでしょー? 完璧なメイク、完璧なヘアスタイル、完璧なスタイリング、私って天才だわ」
ユミちゃんの自画自賛が止まらない。
「でも、始めバカじゃないって言ってませんでしたっけ?」
後輩がネタバレする。
「バカなんて言ってないわよ。ただ出来る訳がないって言ったの! 1ヶ月前にねー…… 」
ユミちゃんは目を細めて語り出す。
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