第395話 シャワー、浴びよ?
肩を落としたまま閉まったドアの前で立ち尽くしていると、再び、さっきよりも強くノックされた。
(幻聴も聞こえる……本当に頭がおかしくなっちゃったのかな。それとも、まだ、夢の中なのかな。起きなくちゃ……)
テオはカーテンを開けて、スモークの下のマンハッタンを見下ろし、ため息を
その時、スマホが鳴った。
見るとトラブルからのラインだ。テオはさらに深いため息を
(トラブル……昨日あんな姿を見せて、心配させちゃったな……ん? 開けて下さい? 何の事だろう……)
テオは返信をした。
『僕は』
『大丈夫だよ』
『心配』
『しないで』
『そっちは』
『夜中だよね』
『ありがとう』
『おやすみ』
すぐに返事が来た。
『夜中ではありません。ドアを開けて下さい』
(ドアって……)
『ドアが』
『壊れ』
『ちゃった』
『の?』
『僕』
『今』
『ニューヨーク』
『だから』
『知っています。私に会いたくありませんか?』
『会いたいよ』
『でも』
ドアがノックされた。
『ごめん』
『誰か』
『来たから』
『たぶん』
『ノエル』
『だから』
『後で』
テオはトラブルからの返信を待たずに、キーチェーンを外してドアを開けた。
「ノエル、僕……」
テオはノックをした人物を見て、息を飲んだ。
「いや、あり得ない……これは、現実じゃな……ハッキリと見えるけど、あり得ない……」
テオの
テオの手を取り、自分の頬に当てた。
「本物? 本当に本当のトラブル⁈ だって、今、ラインして……え⁈ 何が起きているの⁈」
トラブルは笑いながらテオに抱き付く。
テオはトラブルの背中に手を回しながら、しかし、まだ信じられないでいた。
「どうして……どうやって……ええ? 1人で来たの? 韓国から⁈」
トラブルは
「信じられない……夢で見たんだ。トラブルが飛んで来て、僕と……信じられない! トラブルがいる! ここにいるよ!」
テオはトラブルを待ち上げてクルクルと回った。
トラブルは怖がりながらも笑顔でテオを見る。
テオはトラブルを抱いたまま、バランスを崩してベッドに倒れ込んだ。
「本物だよね? 消えないよね? 僕の妄想じゃないよね?」
横になったまま、テオは確認する様にトラブルの顔を触る。
トラブルは笑いながら、その手にキスをした。
「ゼノに言われて来たの?」
トラブルは体を起こして、いいえと、手話をした。
「じゃあ、ノエル? セス? まさか、ジョン⁈」
テオも起き上がり、ベッドの上に座る。
トラブルは首を横に振った。
「僕が会いたいって泣いちゃったから? でも、昨日の今日で到着しないよね? なんで……」
まだ信じられないと目を見開くテオに、トラブルは優しい微笑みを向けた。
サンフランシスコで、ステージの上から私を呼びましたよね?
「あ、あれは、ファンの子をトラブルと見間違えて……呼んでないよ?」
いいえ。歌うのをやめたテオの口は “トラブル” と、何度も言っていました。
「え、本当⁈」
動画がトレンドになっていますよ。
「……恥ずかしいー。口の動きで分かったの?トラブルってバレちゃうかも」
韓国語の読唇術の使い手にはバレるかも知れませんが、そもそも『トラブル』は英語で『問題』という意味なので、歌詞を忘れて問題が起きたとノエルを呼んでいる様にしか見えませんでしたよ。
「本当? そっか、良かった……けど、それで……?」
はい。飛行機に飛び乗りました。サンフランシスコ行きの搭乗券を買おうとして、慌ててニューヨーク行きにしました。危なく、テオのいない街に降り立つ所でした。
「出入国審査は? 大丈夫だったの? アメリカは審査が厳しいって……」
ESTAではなく、I-95で大丈夫でした。
「飛行機の中で書くやつ? そうじゃなくて、あの、パスポートの事……」
テオと同じパスポートになりました。
「本当⁈ じゃあ……」
どこへでも、あなたと行けます。
(第2章第331話参照)
「じゃあ……」
テオ。まだ、話しを続けたいですか?
「え……うん。一緒にいたい」
私はシャワーを浴びたいです。
「あ、そ、そうだよね。飛行機で疲れたよね。浴びて来ていいよ」
テオと一緒に。
「へ? ……え! ええ! えええー!」
カーテンを閉めて来て下さい。
「ちょっと、待って……」
トラブルは立ち上がり、テオに意味深な微笑みを見せてバスルームに消えた。
(こ、心の準備が〜……)
テオは慌ててカーテンを閉め、後を追う。
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