第100話 チョコキス
2件の打ち合わせの内、新番組の打ち合わせに代表も同席した。
ジョンの成人に合わせて内容を大人向けにし、放送時間を遅い時間帯に変更する。
セスは番組内でお酒が飲めると喜び、ノエルはイメージを気にかけた。
「メンバーの中でノエルが1番アルコールが強いとファンは知っていますよ」
ゼノは笑う。
「1番、酒飲みはセスでしょ!」
ノエルは
打ち合わせの後、ゼノが医務室にソン・シムがいた事を代表に伝えた。
「ああ、トラブルから報告があったぞ」
「大丈夫だったんですか?」
「検査を受けに行ったから結果待ちだ」
「何の検査ですか?」
「お前ら守秘義務を知らんのか。ソン・シムに直接聞け」
レコーディング前の空き時間、ジョンが「お腹が空いた〜」と、だだをこね始めた。
テオがマネージャーにケーキを依頼するが「ケーキは当分、見たくない!」と、メンバー達の大反対にあう。
「えー、じゃあ、僕の分だけ。チョコレートケーキ2個、このお店で」
「店まで指定するのですか⁈ 」
マネージャーは、まったくと、天を仰いで出て行った。
「トラブルに持っていくの?」
ノエルが聞く。
「うん。話がしたい」
「カン・ジフンさんの事?」
「やめておけ。墓穴を掘るだけだぞ」
セスは、いつもの皮肉めいた視線を投げる。
「違うよ。カン・ジフンさんはトラブルが友達って言うのだから友達なんだよ。ただ話がしたいだけだよ」
「また、チューしてもらえるかも。だもんねー?」
ジョンがからかう。
「あのね、あれは、お礼のチューなの。僕に見せたい場所はトラブルがこれから生活の基盤にする場所なんだって。そこから、僕と一緒に出勤するのが夢なんだって。で、意味分かんないから聞きに行きたいの」
「トラブルがそう言ったの⁈ 」
「本当に意味が分からないのですか?」
「バカだな」
「婚前交渉!!」
「皆んな、意味が分かるの⁈ 」
目を見開くテオに「それは聞きに行かない方がいいよ」と、ノエルが肩に手を置く。
「そこまで女性に説明させたら振られますよ」
ノエルはゼノに、その通りと、
「聞きに行って
セスは目を細めて、バカと繰り返す。
「なんでなんで⁈ どういう意味なの⁈ 」
「婚前交渉したいって意味ー」
ジョンがふざけて腰をクネクネとしてみせる。
「は? なんで生活の基盤と出勤がそうなるのさ」
まったく理解出来ないテオは眉間のシワを深くした。
「これはトラブルの負担が大きそうですねー。セス、どうしましょうか」
「あいつは一般論とかけ離れているし、テオは一般常識がないから俺には分からん。2人は2人の論理で行け」
「う、うん。でも、失敗は避けたいよ」
テオはノエルに助けを求める。
「分かっているフリしておけば? で、本当に分かったら身を任せるというか……何と言うか……」
ノエルが言葉に詰まっていると、セスがキレ気味に言い放つ。
「面倒くさっ。とっとと引っ付けばいいだろ。並の女じゃないからテオみたいな奴が丁度いいんだろ」
「確かにそうですね」と、ゼノが同意した。
「結局、教えてくれないんだ……」
テオが
テオがケーキの箱を受け取り、控え室を出ようとするとマネージャーが行き先を聞かずに声をかける。
「すぐ戻って来て下さいね!」
「はーい」
医務室では、トラブルがパソコンに向かいカルテの整理をしていた。
ノックしたテオを、笑顔で迎え入れる。
パソコン机の上に、食べかけのチョコレートケーキが残されていた。
テオの視線に気づいたトラブルは手話で、これは甘すぎて残してしまいましたと、言う。
「そうなんだ。じゃ、これは?」と、お気に入りの店のケーキの箱を差し出す。
トラブルは、キャーと嬉しそうに受け取り、応接室のテーブルで箱を開く。すると、はたと、トラブルの手が止まった。
「どうした?」
箱の中には種類の違うチョコレートケーキが2個入っていた。
「あー、マネージャーに頼んで買って来て
どちらも美味しそうですね。
「じゃ、半分こしよう」
2人は並んでソファーに座る。
トラブルは箱を広げ、2つのケーキのフィルムをくるりと剥がし、手で持ってひと口かじった。
美味しい!と、笑顔を向ける。
テオは、クスクスと笑い出す。
「もー、本当にお行儀が悪いですねー」
……ごめんなさい。
「いいえ。僕にも味見させて」
テオはトラブルの手を持ち、トラブルのケーキをひと口かじった。
「うん、美味しい。こっちは?」
もう1つのケーキをトラブルにならって手で取り、かじる。
「ん、これナッツ入りだ。こっちも美味しいよ」
テオは、どうぞと、トラブルの口にケーキを入れる。
「トラブルはナッツ好き?」
もぐもぐしながら、
「どっちも捨てがたいなー。選べないよ」
トラブルは首を傾けてテオの持つケーキを食べた。
テオもトラブルの手からケーキを食べる。
お互い目を合わせながら、微笑みながら食べさせ合った。
ケーキがなくなり、トラブルはテオの指をペロッと舐めた。
驚きながらもテオは、トラブルの口についたチョコクリームを指で拭き取り、ペロリと舐める。
テオの心臓の音が耳まで届いた時、突然、トラブルはバッと立ち上がりドアの鍵を掛けてロールカーテンを降ろした。
足早にソファーへ戻り、テオの手を取り、手の平にキスをした。
「トラブル?」
トラブルはテオの手のクリームをペロペロと舐め取っていく。
(私のも舐めて……)
テオの口に自分の指を近づける。
テオは戸惑いながら口を開けて、その指先をしゃぶった。
トラブルはゆっくりとテオの頰に手をあてて唇を……
トゥルルー トゥルルー……
思わぬ電子音に飛び上がりながら離れる2人。
マネージャーからの電話だった。
早く戻って来いだってと、トラブルがぶすっとして手話をする。
「呼び出し音で分かるの⁈ 」
テオが電話に出ると、トラブルが正解だった。
「はい、はい、はーい」
テオは電話を切りながら「戻らないと」と、言う。
はい。私も仕事に戻ります。
「うん、じゃあね。あの、僕に見せたい場所、楽しみにしてます」
ギュッとハグをしてテオは出て行った。
医務室に取り残されたトラブルは、ああ私は仕事場で何をしているんだーと、落ち込みつつ、あのマネージャー、ここに隠しカメラを仕込んでいるのか?と、部屋を見回す。
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