第165話 発音練習


「遊んでないで、台本読んで動きを頭に入れておきなさいよ」

「はーい。すみません」


 ノエルは口を押さえながら謝る。マネージャーが立ち去った後、再びノエルは口を開いた。


「カン・ジフンさんを呼んでいたの?」

「ううん、近くを通ったから寄ったって。急に来た」

「マジか。直接対決したの?」

「しないよー。僕が居たのはバレてない」

「2人とも、トラブルが来ますよ」


 ゼノが会話を止める。


 トラブルはパソコンでメンバー達と同じセリフの動画を探し出していた。まずは、ジョンからと、発音のチェックをする。


「『きみの ほしいもの ちてるよ……』」


 トラブルがプッと吹き出す。

  

 メモに『SITTERUYO』と書き、パソコンの動画を見せる。


「発音完璧って言われたんだよね?」


 ノエルが突っ込む。


「すぐに取り戻します! しってる、しってる、ちってる、しってる……」


 ジョンはスタジオの壁に向かい、繰り返し練習を始めるた。


 トラブルは、次はテオと、合図する。

  

 テオは台本を見ながら「『こっちに おいでよ』」と、遠慮がちに聞かせた。


 パーフェクトと、トラブルは拍手する。


「やった」


 次、ノエル。


「『いしょに のもう』」


 トラブルは動画を見せ『いっ』をハッキリ発音するように言う。


「分かった。『いっしょに のもう』」


 トラブルは台本を見ながら、うーんと、考え、ノエルに、『のもう』ではなく『のも?』と語尾を上げて聞くように言うように指示を出す。


「『いっしょに のも?』」


 トラブルはgoodと親指を立てる。


 次、セス。


「『ちゅっきり しよう』」


 トラブルは腰を曲げて笑う。


「笑う事ないだろ」


 セスが怒って言うとトラブルは、可愛いですよと、さらに笑う。


「セス、可愛いなんて、良かったね」


 ジョンが無邪気にセスの肩を叩く。


「ふざけんな。さ行は難しいんだよ。ゼノ、言ってみろよ」

「私のセリフにさ行はないですよ。『やっぱり なちゅは』あれ? 合っています?」

「ほらー」

「ゼノ、可愛いー」


 ジョンがピョンピョンと跳ねながら笑う。


 テオが日本語とハングルで書かれた台本を読み、首を傾げた。


「ねぇトラブル? この字は『は』なのに『わ』って読むの?」


 トラブルは、あー……と、分かりやすい説明を考える。


この字は、言葉と言葉をつなぐ時に『わ』と発音します。よく気が付きましたね。


 テオはトラブルに褒められて、くすぐったそうに笑う。


 トラブルはセスに動画を見せ、説得するようにクールに言うなら『しよう』と、語尾を下げ、可愛く愛嬌あいきょうを振りまくなら『しよ?』と語尾を上げる。と、説明する。


「可愛く言ってー」


 ジョンはまだ飛び跳ねている。 


「嫌だ。『すっきり しよう』」


 クールに言うセスにOKを出す。


 ゼノには、『なつは』ではなく、次のジョンのセリフにつながるように『なつはー?』と、語尾を伸ばしてから上げるように伝える。


「『やっぱり なつはー?』」


 トラブルは拍手する。


 ジョンの最後のセリフ。


「『つめたい きもちいい』」


 トラブルは手話で、発音は完璧なので大袈裟に言ってみましょう。と言う。


「大袈裟に言うの?」

「お、ジョン、手話が聞けるようになって来たな」


 セスが珍しく褒める。


「うん! でもトラブルの手話しか、よく分からない」

「そうなの?」


 ノエルが聞き返す。

  

 トラブルの手話としか接した事のないテオとジョンは、トラブルのハッキリとした動きに目が慣れてしまっていた。トラブルが、彼等が理解する言葉の選択や言い方をしているのもあるとセスは説明をした。


「そういうものなんだー」




「カメリハお願いしまーす」


 撮影クルーの声で、スタンバイするメンバー達。


 打ち合わせ通りの動きで順番に日本語のセリフを言って行く。


 撮影監督がカットを掛け、チェックをする。


 メンバー達も仕事モードで真剣にモニターを見つめた。


「セリフチェックをお願いしたいのですが……」


 監督に呼ばれ、トラブルもモニターの前に行く。イヤホンを渡され、監督とモニターをのぞいた。


『君の欲しい物、知ってるよ』

『こっちに、おいでよ』

『一緒に、飲も?』

『スッキリ、しよう』

『やっぱり、夏はー?』

『冷たーい! 気持ちいいー!』


 トラブルは監督に、OKと指で伝える。


「え? 何?」


 監督はトラブルの横顔に見惚みとれていてモニターを見ていなかった。


 トラブルはモニターを指差してからOKを作る。


「ああ、はい。オッケーでーす!」

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