第166話 CM撮影
「本番、行きまーす!」
スタジオ内が真夏の様にライトで照らされ、音楽が鳴り響く。
カメラの前を、絶妙なタイミングで通り過ぎながら順番にアイドルの顔でセリフを言う。
トラブルは満足して見守った。
メンバー達はリハーサル通りにやり遂げた。
「次、別アングル行きまーす」
もう一度、同じ動きを繰り返す。
セスの『スッキリ』が『ちゅっきり』に聞こえなくもないが、まあ、可愛いく見えなくもないのでセーフだろうと、トラブルは判断した。
「ワンショット、行きまーす」
1人ずつ、言われるままにカメラの前でポーズを取る。
トラブルは監督に話しかけていた。
メモで、セリフチェックが終わりならば仕事に戻りたいのですが、と伝える。
監督は立ち去ろうとするトラブルを質問責めにした。
「これは白衣ですか? ドクター? ナース? 日本の方ですか? 違う? 自分は大阪に出張した事がありましてね、日本食は口に合いませんでしたねー。この辺りで美味いメシ屋は知りませんか? 中華料理は好きですか? 美味い四川料理の店があるんですよ。美容とダイエットに効果があるとかで女性に人気の店ですよ。今度、案内しますよ。次の休みに、いや、今夜でも……」
トラブルは眉間にシワを寄せ、不快感を
『仕事に戻りたいのですが』
メモを読んでも監督は「はい、はい。でね……」と、解放してくれない。
トラブルは、はぁーと、ため息を
(だから、部外者に会うのは嫌だとあれほど言ったのに。代表め。自分だけ仕事に戻って……私も忙しいんだっ)
監督は四川料理の素晴らしさ力説している。
(なんなんだ、こいつ。困ったな……)
スポンサーサイドの人間である事は理解しているが、単なる下請けの監督なのか判断が付かない。
蹴り飛ばすわけにもいかないと、トラブルは眉間にシワを寄せたまま、仁王立ちで真っ直ぐ前を直視していた。
突然、トラブルのスマホが鳴った。
見るとテオからの電話だ。トラブルは(電話?)と、スマホを耳に当てる。
「トラブル。この電話、急患ですって逃げな」
セットの向こうで、スマホを持ったテオとノエルが「逃げてー」と、口パクをしている。
トラブルは笑いをこらえながら、電話を切る。
メモで『急患なので、失礼します』と、監督に見せ、監督が返事をする前に足早にスタジオを出た。
医務室に向かいながら、この作戦の首謀者はノエルだなと、笑いをこらえられない。
テオにラインで『助かりました。ノエルにありがとうと伝えて』と、送る。
テオはトラブルが無事にスタジオを出たと確認して、幼馴染に笑顔を向けた。
「ノエルのお陰で助かったよ。本当、尊敬するよ。その悪知恵」
「あのね、悪知恵って悪口だって知ってて言ってる?」
「え、そうなの⁈」
「もー」
トラブルからラインが入った。
テオはノエルに、その着信を見せる。
「さすが、トラブル。分かってるねー」
「何でノエルの悪……じゃなくて、作戦って分かったんだろ? 僕だって、いろいろ考えたのに」
「火事だーって、叫ぼうとしたくせに」
「いい作戦なのにノエルが却下したんじゃん!」
「撮影が止まっちゃうでしょ」
「あ、そうか……」
「もー、バカ」
「ノエルまで、バカって言ったー! 僕にバカって言っていいのはセスとトラブルだけなんだからね!」
「なんだよ、それー」
ノエルが大笑いすると、周りのスタッフから「シー!」と、される。
「すみませーん……」
2人でシュンとしていると、ゼノとセスの撮影が終わった。
ジョンはCMのロングバージョンの撮影で、まだ、終わりそうにない。
「人気者は大変ですねー」
ゼノは1番人気の末っ子にエールを送る。
セスが2人で笑っていた理由を聞いた。
ノエルはトラブルが監督に
「ノエルは本当、天才ですね」
ゼノは感心する。
「テオが悪知恵って言うんだよー」
「褒めたつもりだったんだよー」
「バカ」
セスは間髪を入れず言い放つ。
「やっぱり言われたー」
テオはノエルに抱きついて泣き真似をした。
「ところでさ、カン・ジフンさんが来た時の話、聞かせてよ」
「うん。えーと、あのね……」
「やめておけ」
セスが
「スチール、入りまーす」
次はポスター用の写真撮影だ。
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