第167話 指の跡
ポスター撮りが始まる。
「写真スタジオに移動しないんだね」
ノエルは夏の日差しを再現したライトを
「我々のスケジュールに合わせてくれた様ですよ」
「あ! そうだ! ゼノ、スケジュールを教えて!」
テオがセットのビーチボールを投げながら言う。
「いいですけど、テオがスケジュールを気にするなんて珍しいですね」
ゼノは受け取ったボールを投げ返した。
「うん。あ、車の免許を取ろうかなぁ」
テオはノエルにボールを回した。
「マネージャーが許してくれないんじゃない?」
ノエルはボールを高く投げ上げる。
「だって、いつもタクシーってわけには、いかない……しっ!」
テオはボールをアタックした。ノエルがそれをレシーブして、ゼノがトス、テオがジャンプして、再びアタック!
ジョンの顔面に当たり、末っ子はボールと共にひっくり返る。
「ごめーん、ジョン。大丈夫?」
「バカ」と、セスは小道具のジュースを勝手に飲んだ。
「あのー、自由に動いてと言いましたが、少しカメラを意識して頂けるとー……」
カメラマンが困り顔で恐縮しながら言う。
「すみません!」
ゼノが頭を下げ、仕事モードに切り替えて、夏の雰囲気たっぷりの爽やかなポスター写真を撮り終えた。
衣装を脱ぎながらノエルはソヨンに、ライトが強くて汗をかいたので、全員でシャワーを浴びながらメイクを落としに行っても良いかと聞いた。
普段と違う行動にソヨンだけでなく、メンバー達も一瞬戸惑うが、なるほど、それならば一石二鳥だと
ソヨンはメイク落としと化粧水をノエルに渡し、必ず丁寧に流してからケアするように念を押す。
「セスさんは洗い残しが多いです。ジョンさんは乾燥肌なので絶対に化粧水をたっぷり付けさせて下さい」
「はい、分かりました。ありがとう」
ノエルの先導で練習室のシャワーブースに向かう。
「ねぇ、ノエル。なんでシャワーを浴びたいなんて言い出したの?」
「お前の話を聞くために決まってるだろ」
セスが顔で「バカ」と言う。
「セス、正解ー。皆んなも聞きたいでしょ?」
「聞きたーい!」
「是非、お願いします」
「うん、でも、上手く話せないよ?」
「それは知ってる」
「俺も」
ジョンとセスが
練習室に入り、ドアをしっかりと閉めた。
ノエルは、シャワーを出しながらシャツを脱ぐ。
「で? で? トラブルと一晩何してたの?」
食い気味のジョンをノエルは黙らせる。
「まずはテオが戻った時のトラブルの様子は?」
「……セスの言う通り、1人で泣いてた。で、石を投げられた」
「石⁈ テオに向かって?」
「うん、何個も」
「ええ⁈ テオ、大丈夫?」
「うん、当たってないから」
「トラブルがノーコンで良かったねー」
セスが鼻で笑う。
「ノエル、雪山を忘れたのか? あいつのコントロールが悪いわけないだろ」
(第1章第38話参照)
「あ、そっか。ワザと当てなかったのか。で?」
ノエルは話の先を催促する。
「えーと……」
テオはたどたどしく話して聞かせた。
チェ・ジオンと自分が同じ事を言ったので2人が重なって見えた事。
トラブルは突然、考え事を始める癖があると言っていた事。
トラブルの家にはテレビやソファーがなく、床で寝ようとした事。
それを引き止めて、ベッドで話をしていたらカン・ジフンのトラックが来た事。
カン・ジフンはトラブルが対応して、すぐに帰った事。
自分が歌ってトラブルを寝かしつけた事。
子守唄を歌って
「あとは、えーと。あ、皆んなも遊びに来ていいって言ってた。でー、休みがないから、仕事終わりに泊まりに行って、朝、送ってくれるってさ」
「それでスケジュールを知っておきたかったのですね」
ゼノが納得する。
「テオ、終わり?」
「うん、終わり」
「本当にチューもしなかったの?」
ジョンの興味はそれだけだ。
「うーん、何回かチャンスはあったと思うんだけど……なんで出来なかったんだろ」
「トラブルが嫌がったの?」
「ううん、なんかアラームが鳴ったりとか邪魔が入ったんだけど、僕も……後に引けなくなりそうで、積極的になれなかった」
「偉いよテオ。よく我慢し……え! これ、どうしたの⁈」
ノエルはテオの胸を指差す。
テオの胸には、赤い指の跡が放射線状についていた。
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