第81話 テオの肩で
案の定、パク・ユンホは1時間ごとに痛みを訴えて目を覚ましてはトラブルを何度も呼んだ。
トラブルはその都度、丁寧に対応をして痛み止めのモルヒネを呼吸抑制を来たさないギリギリの量でコントールする。
朝方、パクはやっと落ち着きを取り戻して入眠した。
トラブルも仮眠を取る為、横になった。
こんな夜は、イム・ユンジェ医師の言葉が頭をよぎる。
『君1人の介護ではすぐに限界を迎えるよ』
(そんな事は充分に分かっている。素人じゃない。今夜のパク・ユンホの状態も想定内だ。私を見くびるな……)
トラブルは気を失うように寝た。
「トラブルさん、仕事の時間ですよ」
お手伝いさんに揺り起こされ、トラブルはハッとパクを見る。
パクは呼吸も穏やかに寝ていた。
ホッとして音を立てないように部屋を出る。
お手伝いさんが作ってくれたサンドイッチを食べながら、昨夜の様子を連絡ノートに記載する。
ふと思い付き、サンドイッチまだある? と、聞いた。
「たくさんありますよ。お昼に持って行きますか?」
2人分と、指で言うトラブル。
「はい、はい」
包んでくれたサンドイッチをリュックにしまい、あとはお願いしますと、家を出た。
バイクを飛ばすと寒さが眠気を吹き飛ばしてくれた。
会社に着くなり、作業を開始した。
医務室の荷物を1階事務所倉庫へ移動させる。紙カルテの入ったダンボールを運ぶが、女の力では重かった。
5往復した頃、息が切れてくる。
(まずい、あと1時間で解体業者が来るのに……)
トラブルは歯を食いしばってペースを上げた。
8割方運び出した頃、総務の2人が出勤して来た。
「ほとんど終わってますね」
「あとは自分達がやりますよ」
書類棚と薬品棚を3人かがりで1階の粗大ゴミ置き場へ運ぶ。
ドアの文字だけが医務室であった事を思い出させるまでに室内は空っぽになった。
総務の2人に隣の部屋の片付けを頼み、自分はエレベーターホールの椅子でパソコンを開いて購入予定物品の確認を行う。
あー……と、トラブルは天を仰ぐ。
睡眠不足で肉体労働、その後、ジッとパソコンを見ていると強烈な睡魔に襲われる。
(少し寝たいな……)
その頃、メンバー達はミュージックビデオ撮影のリハーサルを社内スタジオで行っていた。
セット確認のためメンバー達はスタジオ横の控え室で小休憩を取る。
昨夜も夜中までテレビ収録を行っていた5人は、疲れた様子でソファーや椅子に座っていた。
ソファーに座るテオにジョンが何かを期待して話し掛ける。
「ねぇ、あれからトラブルとラインした?」
「ううん。おやすみなさいって打って既読はついたけど返信はなかったよ」
「なーんだ、つまんないの」
「トラブルは、いつも忙しいからね」
そう言うテオの顔はどこか寂しそうだった。
ふいにドアが開いた。
「トラブル! どうしたの⁈」
昼の診察の時間には早い。思わず笑顔を向けるテオに、ドアを開けたトラブルは驚いた顔をしていた。
普段使われていない控え室なので誰もいないと思っていた。メンバーがいたのは想定外だが、いかんせん眠たい。
少し休ませて下さい。
トラブルはテオの隣にドサッと座り、背もたれに寄りかかり目を
「大丈夫? 具合悪いの?」
テオの問いに、大丈夫ですと答え、テオの肩に頭を乗せて、足を反対側に伸ばし横になった。
すぐに、スーっと寝息が聞こえて来る……。
テオはポカーンと口を開けたまま、トラブルの体重を肩で支えながらメンバー達を見回す。
セスは肩をすくめただけで、視線をスマホへ戻した。
ジョンは何かを言いかけ、ゼノに「しーっ」と、されて口を閉じる。
ノエルは無言でニヤニヤと頰を上げる。
10分ほどテオが固まったまま支えていると、トラブルのポケットからスマホの着信が鳴った。
寝ていたはずのトラブルがゆっくりと黒いスマホを取り出して見る。
何やら返信をして、よいしょと体を起こし、テオに頭をペコッと下げて控え室を出て行った。
「うわー、ビックリした」と、テオは肩をさする。
「すごく疲れていたみたいでしたね。何だったんでしょう?」
ゼノはセスに説明を求める。
「パク先生の具合が良くないのかもな」
セスはスマホから目を離さずに言った。
「そうか……パク先生もトラブルも頑張っているんだ……」
テオはトラブルが出て行ったドアを見る。
トラブルがスタジオ反対側の倉庫から外に出ると、ピクニックシートを肩にかけたカン・ジフンが待っていた。
「チョコレートケーキ、買ってきたよ」
柔らかい笑顔で小さな箱を振る。
やったーと、トラブルは笑顔で答えた。
2人はいつもの土手へ向かう。
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