第154話 雨夜の品定め?


 テオを送り出した宿舎では、祝杯をあげていた。


「やっと、ひなを1羽、巣立ちさせた気分ですよ」

「ゼノ、その気持ち分かるよ」


 ゼノとノエルは硬く握手をする。


「ヒナって、だぁれ〜?」


 真っ赤なジョンが聞く。


「もう1匹のひなは寝た方がいいんじゃないか?」


 セスが3本目の日本酒を開けながら言う。


「もう1匹のひなって、だぁ〜れ〜⁈」

「はいはい、ジョン。部屋に行きましょうか」

「いやだ! テオだけ婚前交渉ずるい! 僕もしゅる〜!」

「しゅるって。舌がまわってないし」


 ノエルが笑う。


まってんな」

「こら、セス。はい、ジョンもう寝ますよ」


 ゼノがジョンを連れて部屋に消えた。


「テオは上手くやっているかなー」


 ノエルは不安を隠さない。


「カン・ジフンと出くわしてたりしてな」

「うわ、笑えないよー。本当にセスはトラブルがカン・ジフンさんに連絡すると思うの?」

「いや、しないだろうな」

「テオを脅しただけ?」

「可能性があるって言っただけだ」

「テオは完全に真に受けていたけどね」


「セスはどうなんですか?」


 ジョンを寝かせたゼノが戻って来た。


「どうって?」

「トラブルから連絡があったら会いに行ってましたか?」

「ああ、行っただろうな」

「そうなんだ!」


 ノエルが驚きながらグラスの中身を胃に入れる。


「テオからトラブルを奪っていた?」

「それは、ない。俺のタイプじゃない」

「トラブルが? 意外ー! 髪の長い子がいいとか?」

「お前、髪型に惚れるのか? 俺はあいつみたいに従順なタイプより、自分で稼いで自分の事は何でも決められる女がいい」

「トラブルが従順⁈ どこが?」

「ノエル、トラブルはすごく甘えん坊だと思いますよ」

「えー! ゼノもそう思うの⁈ 一体どこが従順で甘えん坊だっていうのさ」

「トラブルはファザコンだと思いますよ」

「えー?」

「ゼノに一票。俺もそう思う。あいつは年上好きだ」

「分からないよー」

「ノエル、トラブルの周りには年上の男性しか見当たらないと思いませんか? まあ、カン・ジフンさんが幾つか分かりませんが、私よりは年上だと思いますよ」

「看護学校で付き合ってた奴はいなくて、チェ・ジオンは10才近く年上で、パク・ユンホ、代表、イム・ユンジュ医師、カン・ジフン、あと仲が良いのはソン・シムさん。な? 見事に年上ばかりだろ。女もユミちゃんかイ・ヘギョンさんくらいしか、いない。2人とも年上だろ?」


 ノエルはまだ分からないと首を傾げる。


「トラブルが大人びているから、年の近い人と話が合わないだけじゃないの?」

「あいつが楽なのは年上なんだよ」

「ファザコンなのは、何となく分かるけど従順って…… ほら、パク先生が、トラブルは嫌なことは絶対にしないって言っていたじゃん」

(第1章第65話参照)


 セスは鼻で笑う。 


「それは、許してもらえると知っているからだろ。甘えてんだ」

「従順がピンとこないなー」


 腕を組むノエルにゼノは持論を展開する。


「職業柄ですよ。人を観察して先回りをする癖がついていますからね、トラブルは」

「あー、そうかも。納得した」

「バカ、職業柄じゃない。大人の顔色をうかがいながら成長した子供だからだ」


 セスは、そう言いながら4本目を開ける。


 虐待の事実を知るゼノとノエルは答える事が出来ない。


 セスは、そんな2人を見て話題を変えた。


「これ、ジュースみたいだな」

「うん、日本酒の甘口ってフルーティだね」

「2人とも、そろそろペースを落とさないと明日に響きますよ」


 同じくらい飲んでいるゼノに、セスは理由があると言う。


「テオの童貞さよならパーティーだろ」

「そうだったんだ。トラブルってテオの前はチェ・ジオンさんだけだよね? 年下の彼氏って、テオ、大丈夫かなー」

「ノエル、お前はどうだったんだよ」

「僕? 僕はー……成り行きで、いつの間にか終わった的な……」

「皆んな、そんなものですよ」


 ゼノのフォローに感謝しつつ思っていた事を口にした。


「セスの始めての相手は? どんな子?」

「太った、おばさん」

「嘘⁈」

「嘘」

「もー。ゼノ、何とか言って。セスは人から聞き出すくせに自分の事は何も教えてくれないんだから」

「セスの悪い癖ですねー。セスはね、年上のお姉様に食われちゃったんですよー」

「食われたって言うな」

「本当⁈ 高校の時、彼女いたって言ってなかったっけ?」

「その彼女が年上のお姉様なんですよ」

「えー! 年上って何才くらい?」

「あー、社会人だったから……」

「ええー! 大人じゃん!」

「ノエル、うるさい」

うらやましいー! 年上のお姉様に? ヤラれちゃったわけ?」


 セスは興奮するノエルに顔を近づける。


「そりゃあ、もう…… 手取り足取り」

「イヤー!」

「前から後ろから……」

「キャー!」

「ノエル、ジョンが起きちゃいますよ」


 ゼノが注意するがノエルの悶絶は止まらない。


 手を叩いて大笑いするセス。


 2人は「かんぱ〜い!」と、飲み続ける。


「何に乾杯なんだか……」


 ゼノは酔い始めた2人に渋い顔をして、日本酒の瓶を見る。


「げ、アルコール度数20⁈ ワインより高いとはー……」

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