第397話 お母さ〜ん
「お待たせー!」
テオは笑顔で小走りに駐車場に現れた。
ノエルは、移動車の前でゼノと顔を合わせて驚く。
「ノエル、おはよう。どうしたの? 行くよー。さあ、出発ー!」
元気なテオにノエルは眉間にシワを寄せる。
「テオ。なんで、そんなに元気になったの?」
「ん? 寝たらスッキリしたから」
「……夢の中でトラブルと会えたの?」
「うん! もう、バッチリ会えたよ」
「それで、元気になったの?」
「そうだね! でも、基本的に僕はいつも元気だよ?」
「そうだけど……」
ノエルはゼノと小声で話す。
「どうする? 作戦は……」
「必要なさそうですね」
「うん。テオのお母さんが間に合うか分からないから、黙っておこうか」
「そうですね。しかし、元気なフリって事は、ないですかね?」
「ううん、本当に元気みたい」
「では、黙っていましょう」
テオは、終始、機嫌良くリハーサルを終わらせた。
ゼノが控え室で、挨拶の確認をする。
「皆んな、英語を出来るだけ使う様にしましょう」
テオは手を挙げて、ゼノを呼んだ。
「歌詞を忘れた事と、昨日、泣いちゃった事を謝りたいんだけど、何て言えばイイのか教えてくれる?」
「あー、そうですねー……あまり重くならない感じでですよね。えーと……」
「ねぇ、ゼノ。『間違えない様に頑張ります』と『皆んなが家族と気付いたから大丈夫です』って感じは、どう?」
ノエルの提案にゼノは
「そうですね。もっとフランクな感じで……」
ゼノはテオに英語訳で言って聞かせる。
「覚えられそうですか?」
「う……紙に書いて」
「はい。自分の口で言いたいなんて偉いですね」
「うん。心配させちゃったから謝らないと」
開演直前、
ノエルはセスに聞く。
「テオのあれ。どう思う?」
目を細めて、じっとテオを見るセスは答えない。
「何、何、セス、なんなの?」
「いや。まさかな……」
セスは曖昧に答え、時間切れとなった。
ゼノの合図で、いつもの様に円陣を組む。
「ニューヨーク初日です」
「ニューヨーク!」
「ジョン、うるさいよー」
「ヘヘッ」
「ケガのない様に」
「集中して」
「楽しもう!」
「イエ〜イ!」
「イエイ⁈ テオー、やっぱり何かあったの?」
「なんで? 気合を入れたんだよ。頑張らないとねー」
ノエルは、やはりテオのテンションはおかしいと首を傾げながら髪をかき上げる。
「ゼノ。セス。なにがあったと思う?」
「こういう事はセスの専門ですよ」
「知らん」
「セスー、さっき何か言いかけてたじゃん」
「分からん」
「もー、教えてくれたってイイのにー」
天井が揺れるほどのファンの掛け声が始まる。
ゆっくりと床が
その日のテオのパフォーマンスは、見慣れたスタッフ達も舌を巻くほど素晴らしいモノだった。
骨折で踊る事の出来ないノエルのパートを踊ってはファンを
ノエルはテオが何かを隠しているとは感じ取ったが、まさかトラブルが来ているとは、思いも寄らなかった。
ゼノはテオが頑張っていると感心し、ジョンは悔しそうにテオのパフォーマンスに付いて行っていた。
セスは薄々は勘付いてはいたが、テオが母親が現れるサプライズに気付いただけなのか、判断が付かなかった。
こうして、ニューヨーク初日の公演を大成功で終わらせ、メンバー達は急いで着替えをする。
マネージャーがノエルに何かを耳打ちした。
「……そっか、分かった」
ノエルは、その内容をゼノに伝えた。
「そうですか、間に合いませんでしたか。部屋にいるのですね?」
「うん、カメラもスタンバッてるって」
「では、少し遅れて我々も入れば良いのですね」
「そう。セスに伝えて。僕はジョンに言っておく」
「了解です」
移動車の中でジョンは、ニヤニヤとテオを見る。
「何だよー、ジョン。僕に何か付いてるの?」
「なんでもないよ〜」
ゼノはジョンを
(ジョン! バラしてはダメですよ!)
(はーい……)
ジョンは肩をすくめて、しかし、顔は笑ったまま窓の外に視線を流す。
ホテルに到着してエレベーターを降りた時、テオは目を見張った。
廊下の先に照明を点けたカメラが待ち構えている。
(え、なんで?)
テオはノエルを見る。ノエルは同じ様に驚いたフリをして「ビハインドかなぁ」と、誤魔化した。
「お疲れ様でしたー」
メンバー達はそれぞれの部屋に入る。テオはとりあえずカメラに手を振って、部屋のドアを開けた。
そして、さらに驚いた。
室内から照明を当てられ、カメラの横に女性が立っている。
(え⁈ 誰? なんで僕の部屋に? トラブルは?)
女性は手を広げて、テオを呼んだ。
「テオ」
テオは、その聞き覚えのある声に全身で答えた。
「母さん!」
テオは母親に駆け寄る。
「なんで⁈ どうしているの⁈ 嘘でしょ! いつ来たの⁈ 会いたかったよー!」
(トラブルは……どこに……)
テオは母親に抱きつきながら、これが自分のホームシックを証明するためのサプライズ演出だと気が付いた。
母親の肩に大袈裟に泣き付いて見せる。
ノエル達もカメラを引き連れて部屋に現れ「サプラーイズ!」と、笑顔を見せる。
「ノエル、ありがとう!」
「セスが考えたんだよー」
「セス、ありがとう!」
テオはメンバー達とハグをし合う。
(トラブル、バスルームに隠れている? 部屋にいなかったのかなぁ)
テオの部屋に入る少し前、メンバー達はテオの部屋のドアに耳を付けて、入るタイミングを
「よし、今だ!」
ノエルを先頭に、なだれ込む。
最後のジョンは、その時、廊下の先の開いたエレベーターの扉に目が行った。
扉が開くと、そこには帽子を深く被った女性が立っていた。
「トラ……」
ジョンの口が動き切る前に女性はエレベーターの扉を閉めて、上がって行った。
「ゼノ、今……」
ジョンの声は、ノエルとゼノのサプライズの声にかき消された。
前と後ろからカメラ撮影をされ、一応、プロ意識を待つジョンは喜ぶテオに合わせてハイテンションでハグをする。
「母さん、いつ来たの?」
「今さっき、到着したのよ」
「テオ、驚いた?」
「うん、すごく驚いたよー」
「やったー、大成功だね」
「すごく嬉しいよー」
カメラはマネージャーの合図で停止され、サプライズは最高したと、スタッフ達は解散した。
ノエルは、全員で食事に行こうと誘った。テオは
「……あの、母さん。今夜はどこに泊まるの?」
「部屋はないの。ここに寝かせてちょうだい」
「ええ⁈」
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