第286話 天然は治りません
「あ、ノエル、お帰り。ソヨンさんに薬渡せた?」
「うん、渡せたよ。ゼノ、ア・ユミさんとダテ・ジンさんが来るって聞いてた?」
「え! 聞いていません」
「やっぱり。ソヨンさんが
ノエルは、ソヨンの真っ赤な顔を思い出して頬が上がる。
「あいつ、わざとなのか⁈」
「お、ゼノに『あいつ』と、言わせた。やるな、サブマネージャー」
セスは、皮肉って拍手をする。
「セス、笑えませんよ。日本側と打ち合わせなのに、彼ではア・ユミさんに迷惑を掛けてしまいます。今だって、彼はどこにいるのですか?我々に水、1本差し出すわけでもなく……」
「お腹空いたー!」
「ジョン、そうですよね。いったい、どこに……」
控え室のドアがノックされ、ゼノが返事をする前にドアが開いた。
「マネージャー!」
「お疲れ様です。胃の調子が戻ったので出勤しました。はい、おやつ」
「やったー!」
マネージャーから袋を受け取り、ジョンは嬉々として食べ始める。
「助かりました。ジョンが空腹を訴えていたのですよ」
「ちょうど、その時間ですからね。日本スタッフはまだですか?」
「はい、6時からと聞いています」
「ん? 30分前か……ちょっと、会議室を
「いくら日本人でも30分前には来ていないのでは?」
「念の為、見て来ます」
マネージャーは控え室を出て行った。
「ゼノも食べなよー」
「はい、いただきますよ」
メンバー全員でおやつを食べていると、マネージャーとア・ユミ、ダテ・ジンが顔を出した。
「2人とも、来ていたのですか⁈」
「いえ、早く着いてしまったので、会議室で時間を潰していたのです。マネージャーさんが、一緒にと誘って下さって……すみません、休憩中に。皆さん、髪の色が素敵ですね」
ア・ユミの社交辞令が終わるや否や、ジョンはダテを引っ張る。
「ダテ・ジン! こっち来て! ゲームしよ!」
「はい。練習しました。負けません」
「言ったなー! コテンパンにしてやる!」
「こて? 何ですか?」
「いいから、始めるよー!」
ジョンとダテ・ジンの対決を皆が注目する中、ゼノとマネージャーとア・ユミは雑談の様な打ち合わせを始めた。
「皆さん、体調は万全ですか?」
「体調は良いのですが、トラブルの貧血をテオが心配して睡眠不足ですね」
「そうですか。それは心配ですよね」
「今朝は顔色は良くなっていました。自分で鉄剤の注射をしていましたよ」
「今朝? トラブルさん、お休みですよね? 医務室は無人でしたが……」
「あ、あー、いえ、あの、その……」
「結局、泊まったのですか……」
しどろもどろのゼノに、マネージャーは低い声で聞いた。
「あー、はい、1人にするわけにもいかず……泊まりました」
ア・ユミは手で口を覆い、小さな声で「トラブルさんの恋人はゼノさんだったんですね?」と、興奮を抑えながら言った。
「いえ! あの、それは……」
「大丈夫ですよ。決して漏らしませんから。口は硬いので安心して下さい」
「はぁー……それは、ありがとうございます」
こんなにも早くテオの身代わりを勤める事になるとは思わなかったと、ゼノは頭を
マネージャーは、しかめっ面をしてゼノを見る。
ゼノは話題を変えた。
「サブマネージャーは、どこに行ったのですかね?」
「彼には、帰って
「彼は、今後も我々に付く事があるのですか?」
「いえ、ありませんよ。今日は彼しか捕まらなかったので、仕方なくです」
ゼノは、露骨にホッと胸を撫で下ろす。
マネージャーは笑いながら「そんなに、使えませんでしたか?」と、聞いた。
「使えないとか、そんなレベルではなくて、何と言うか……一生懸命にしてくれたのですが……」
「彼は、根はいい奴なのですよ。嘘や誤魔化しをしない実直な青年ですが、なにせ気が利かない。先を読んで動くことが出来ない。困ったものです」
ゼノはマネージャーが自分と同意見だった事に
「そろそろ、お時間ですが会議室に移動しますか?」
ア・ユミの提案にマネージャーは首を振った。
「我々だけなので、ここで構いません」
「では、始めますね。ダテくん! 時間よ」
「は、はい。あー! 死にましたー!」
ジョンはゲラゲラと笑いながら「もう、1回!」と、ダテ・ジンを誘う。
「ジョン、仕事ですよ。ダテ・ジンさんを返して下さい」
メンバー達はテーブルに付き、ア・ユミからパスポートを返される。
「あの、テオさん。トラブルさんのパスポートだけ預からなかったのですが、飛行機の手配などは終わっているのでしょうか? ホテルはおさえてある様なのですが」
「あー、うん。僕達より早い便で行くって。だから大丈夫だと思うけど……」
「そうですか。では、日程表をお渡ししますね。まず、
ア・ユミの説明を受けながら、テオはトラブルを思い浮かべていた。
(自分で飛行機を手配したのかな……肝心な事は、いつも1人で解決させちゃうんだから……そういうの聞いても、大丈夫って笑うんだろうな……)
ア・ユミは説明を終わらせる。
「では、明日、
よれよれの練習着に着替え、スタジオに行く。
「ハンガーに掛けておかなかったのですか⁈ みっともない!」
マネージャーに叱られながら、メンバー達は顔を見合わせ、順番にゼノの肩に手を置いて行く。
「ゼノ、よく耐えたな」
「お疲れ様です」
「天然は治らないってさ」
「ノエル、何それ?」
「ジョン、あとで教えてあげる」
監督らと最終確認を行い、長い1日は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます