第185話 気絶
「トラブルは日本に行きません。というか、行けません。自信がないって。僕も守ってあげる自信がないって伝えたよ」
「そうですか。仕方がないですね」
リーダーはポンッと肩を叩いて慰める。
「それだけか?」
セスは少し怖い顔をしてテオの返事を待った。
「あの……自分を捨てた国だって。捨てた人がいる国だから……」
「で? お前は何て答えた?」
「え。僕は、トラブルが捨てた犯人って言うから、そんな事言うもんじゃないって。生んでくれて、ありがとうって思わないとって……」
「犯人に感謝しろと?」
「う、うん。そしたら、フラッシュバックが来たみたいになっちゃって、違ったんだけど、1人になりたいって……なんでだろう?」
セスは眉間にしわを寄せ、
「お前さー、本当に、分からないのか?」
「え?」
「考えろよ」
テオは会話を思い出しながら頭をひねった。
「えーと、トラブルは日本が嫌いで……」
「嫌い? あいつが言ったのか? お前が感じた事か?」
セスは間髪を入れず突っ込む。
「いや、嫌いじゃない……怖いって言ってた。犯人がいるから。違うな、犯人を捕まえられなくて、それを隠す為に子供を外国に送る国だから……怖くて1人になりたい? なんか、これも違う……」
「テオ、少し方向修正してやる」
セスは深呼吸してから、ゆっくりと話し出す。
「あいつは捨てた親を犯人と言った。お前は親を犯人と言うなと言った。ありがとうと思えと言った」
「うん、そうだよ。間違ってないよね?」
「ああ。だが、あいつは、その後、1人になりたいと言った。なぜだ?」
「えっと、犯人にありがとうなんて言えないから……?」
「犯人とは?」
「捨てた親」
「いや、犯人とは、どういう時に使う言葉だ?」
「犯人は悪い事をした人でしょ? トラブルに悪い事をした人」
「で、あいつは悪い事をされて、どうなった?」
「どうなったって……僕達と出会った」
「ダァー! そこまで飛ぶなよー!」
ノエルはもどかしくなり口を挟む。
「セス、教えてよ。分からないんだから」
しかし、テオは愛する人を自分で理解したいと首を振る。時間をかけて考えれば、きっと理解出来る。だけど、少しだけヒントをちょうだいと、ねだる視線をセスに送る。
セスは呆れながらもテオが考えをまとめるのを辛抱強く待った。
沈黙の中、待てない末っ子が口を開いた。
「ねぇねぇ。セスは、どうしてそんなにトラブルの気持ちが分かるの?」
ジョンのケロリとした口調にゼノが同意する。
「そうですよ。それさえ教えて
セスに注目が集まる。
「あー……俺のやり方はオススメ出来ない。テオのやり方を見つけてくれ」
「なんで! ヒントだけでもいいから。お願いだよ、セス」
「僕からも頼むよ。テオはこれからも、この問題に何度も向き合わなくてはならないんだから」
ノエルが加勢する。
セスは顔を手で覆い、
「俺は……例えば、道端の踏まれた花で作詞作曲をするとするだろ? その時、花の中に入り、下から見上げて踏まれる瞬間の痛みや悔しさを感じるんだよ。出来るだけシンクロすると分かるというか……まあ、結局は想像だけどな」
自虐的に微笑みを浮かべるセスに、皆は意味が分からないと
「花の中に入るって、トラブルの頭の中に入って……それで……」
「あいつになって、あいつの目から、
テオは床の一点を見たまま微動だにしなくなった。
「トラブルの目の中から、外を見る……」
テオの呼吸が荒くなる。
「こんなに、こんなに
テオは目を
セスが慌ててテオを止める。
「テオ、ダメだ! 目を開けろ! 戻って来い! テオ! 俺を見ろ!」
セスはテオの肩を揺らし続ける。
テオはセスの腕に崩れ落ちた。
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