第477話 僕のせいだけど!


 無言のテオに、ノエルは背中に手を当てながら話し掛けた。


「テオー、あのバイクはチェ・ジオンさんの形見だって知ってたじゃん」

「うん、だけど悩んでいたから……それに、捨てろって言ったわけじゃないよ? 新しいの買ったってイイじゃん」

「バイク屋さんに、それを言われれば『そうかな』って思えるけどさー。テオには言われたくなかったと思うよ?」

「そうか……謝った方がイイよね……」

「傷付けちゃったんだからねー」

「うん。僕、謝って来る!」

「ダメです」


 走り出そうとするテオをゼノが止めた。


「ゼノ! なんでさ!」

「今から番組の収録です。空き時間が出来れば構いませんが、今からはダメです」

「……分かった」


 テオは渋々だがゼノに従い、大人しくスタジオに向かった。


 メンバー達の家という設定のセットで簡単な打ち合わせを行い、メイクと衣装を身に付ける。


 ゲームで遊びながら対決し、負けたチームが料理を作る。その片付けを賭けて、またゲーム対決をする。


 6時間が経過しテオが疑問を口にした。


「ねぇ、ノエル。今日の収録長いよね?」

「あれ、テオ、聞いていなかったの? 今日は3本撮りだよ」

「3本⁈ 」

「うん、明日からオーストラリアでしょ? だから……」

「明日⁈」

「もー、もっとスケジュールを管理しなよー」

「トラブルの所に行ってくる!」

「え、もう帰ったんじゃん? 夜中だよ?」

「あ、そんな時間……帰っちゃったよね」

「ラインでも何でも連絡すればイイじゃん」

「うん……電話で謝るよ」


 ノエルは項垂(うなだ》れる幼馴染を見て、謝るヒントをあげたいと思った。


「ねぇ、テオ。今朝はトラブルも寝坊したの?」

「ううん。僕がり時間を間違えて伝えちゃって。朝、トラブルが気付いてくれてセーフだったんだ」

「やっぱりねー。あのね、トラブルのバイクの調子がおかしくなったのはテオのせいだと思うよ」

「え! なんで⁈」

暖機だんきしなかったって言ってたじゃん。あれって今朝、遅刻しそうで出来なかったんじゃないの?」

「え、そうなのかな……」

「エンストしていなかった?」

「あ、1回……んーん、2回、停まってた。いつもより運転が荒くて……急いでいたからだと思ってたけど」

「あのね、テオが時間を間違えたせいで大切なバイクの調子が悪くなったのに、テオが『買い換えれば』って、おかしいよね? トラブルはそこに怒っていると思うよ?」

「そっか、分かった。ノエル、ありがとう」

「どういたしまして。さあ、もう少しで終わりだよ」

「うん、頑張る」


 テオ達が無事に収録を終わらせ、宿舎に帰った頃には、とっくに日付は変わっていた。


 テオはこんな時間にトラブルに連絡をして良いか迷ったが、まずは謝るのが優先だとラインを送っておく事にする。

 

『もう』

『寝てるよね?』

『今日は』

『僕の』

『せいで』


 ラインを送るテオの手が止まる。既読が付き、ビデオ通話が返って来た。


(え、起きてたんだ。すぐに返事をくれるなんて珍しい……)


 テオが応答すると、そこには真っ赤な顔のトラブルが映し出された。


「え! トラブル、お酒⁈」


『おはようございます』


「酔ってんじゃん」


『トラブルって、こんなに弱いのねー。知らなかったわよー』


 真っ赤なトラブルの後ろからユミちゃんが顔を出した。


「ユミちゃん⁈ 何でユミちゃんがいるの⁈」


『私がいちゃいけないって言うの⁈ 』


「いえ、そういう意味では……」


『オートバイを修理に出したから私の車で一緒に帰って来たのよ。一緒にご飯を作って、ワインで乾杯したのー』


「え! ワインって僕のお土産の……」


『そうよ、カルフォルニアワインって最高ねー。御馳走様』


「あ、どういたしまして……」


(2人で飲もうと思っていたのに……)


『今夜はここにお泊まりなのー。バイクが戻るまで私が車でトラブルを送迎するから。あんたは明日、空港でしょ? 早く寝なさいよ。じゃあねー』


「え、あの、トラブル……」


『トラブルは寝ちゃたわよ。ほら、見える?』


「うん……」


『何か用だったの? 伝えておくわよ』


「ううん。大丈夫……」


『そう、じゃあねー。おやすみー』


「おやすみなさい……」


 ユミちゃんに通話を切られ、テオはしばらく放心状態で真っ暗な画面を眺める。


(トラブル。ひどいよ……ワイン、ユミちゃんと飲んじゃうなんて……ユミちゃんを泊めるのだって僕に一言あってもイイじゃん。僕が家に行ってたら鉢合わせだったじゃん。ひどいよ……トラブルのバカ……)


 テオはとぼとぼとノエルの部屋を開ける。


「ふえ〜ん、ノエル〜」

「なに、どうしたの⁈」


 テオは、ベッドでスマホをいじるノエルに抱き付いた。

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