第63話 白の写真


 パーテーションの後ろでは、メンバー4人がそれぞれのポーズで座っていた。


 ノエルは眉間のシワを深くして、じっと耳をすませていた。セスはスマホで何かを調べている。


 ジョンは耳を塞いだままゼノの肩を借りていた。


 ゼノは末っ子の背中をさすりながら、このまま未成年のジョンに聞かせていても良いのか悩む。


(ジョンだけでも連れ出した方がいいのか…… ?)


 しかし、それではノエルとセスの負担が大きくなる。自分はリーダーとして、この場から離れるわけにはいかない。


(でも、ジョンが……ジョンをどうしようか)


 そんなゼノを察したセスが、ゼノにスマホを見せた。


『ジョンは大丈夫だ。落ちついてパク・ユンホの話を聞こう』


 ゼノはうなずき、自分のスマホに『大丈夫ですか? 落ちついて話を聞きましょう』と、書いて見せる。


 ジョンは小さくうなずき、ゼノから離れた。




 パク・ユンホの一人芝居は続く。


「トラブル、君はいきなり声を失った訳ではないよな。目覚めた時、彼は?と、言ったんだろ? イ・ヘギョンさんに聞いたよ。彼の死を聞かされて気を失い、意識を取り戻した後も、まだ、ハイ・イイエは答えていたと」


 テオは、声が発せなくなった原因は婚約者の死にショックを受けたからだと思っていた。パクの言葉に耳を傾ける。


「警察のしつこい事情聴取と彼の母親の心ない言葉に徐々に口数は少なくなり、そして、イム・ユンジュ医師が君の言語中枢を破壊した」


 テオは息を飲む。それはパーテーション裏の4人も同じだった。


「覚えているかい?トラブル。忘れる訳がないか。忘れた振りをするのか? 思い出させてやろう。イム・ユンジュ医師はね、純粋な誠意でこう言ったんだよ」


 パクは大きく息を吸い込んだ。


「チェ・ジオンの心臓から流れ出た血液が君の傷を塞ぎ、君は一命を取り留めた。君の服の血液はほとんどが彼のものだったと……」


 ハッと鼻で笑う。


「そんな事、知りたいと思うか? 警察に犯人の顔写真を見せられて、最初に声をかけてきたのはどの男だ。最初に殴ってきたのは? 最初にナイフを取り出したのは? 3人の男は何と言った? 君とチェ・ジオンはどのように動いた? 何度も何度も同じ事を聞かれ、何度も何度も繰り返し『もう一度』『確認です』『思い出せ』と、やられる。そんな状況の患者に『死んだ彼の血のおかげで助かった良かったね』何の慰めにもならないだろ⁈ それからだ、ミン・ジウが声を失ったのは……」


 パクは水をひと口飲んだ。カメラを2人に向ける事は忘れない。


「で、疑問だ。誠意からとはいえ、自分にそんな話しを聞かせた医師と、なぜ、今も仕事をしているのか。優秀な医師だとしても声を奪った張本人だぞ? 本来なら2度と会いたくないだろ」


 ジロリとトラブルを見る。


「お前はイム・ユンジュ医師の罪悪感を利用して、自分の都合の良いようにあやつっているんじゃないのか?」


 テオの頰を涙がつたう。


 トラブルは目を赤くして、じっとパク・ユンホを見ていた。


「悲惨な事件に巻き込まれた悲劇のヒロイン。自殺未遂を繰り返し、保護措置という名の監獄に入れられた可哀想な主人公。……それは、真実か?」


 パクは、ここからが本番だと声を高くした。


「自分勝手で傲慢ごうまんな、お前とは思えない行動だ。お前は彼の死に責任を感じているのではないのか? 実は彼が死んだ本当の理由があるからだろう。トラブル、新聞には載ってない本当の理由を、テオに教えてやろうか……」

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