第377話 お姉さんが隣に座る店に行きたい!


『バイバーイ。明日も頑張るねー』


 メンバー達はジョンの可愛いアップでLiveを終了させた。


 廊下のスタッフがカメラを片付けに入って来る。


 テオは改めて、皆に謝った。


「皆んな、ごめんなさい。言い訳する機会をくれて、ありがとう」

「自分の気持ちを伝えたくて点けたのですが、ノエルが来てくれて助かりました」

「ゼノだけに謝らせるなんて、出来っこないよー。僕のせいでもあるんだからさ。ジョンは何で来たの?」

「テオの分まで頑張れなかったから……」

「お、自覚ありか」

「セスは何で来たのさ。珍しい」

「新曲の宣伝だ」

「最低ー」

「うるせっ」


 ノエルは幼馴染に笑顔を向ける。


「テオ、トラブルと連絡は取れたの?」

「うん。今、ラーメン食べているから後でラインくれるんだ」

「良かったね。電源を切っていた理由は聞いた?」

「あ、忘れてた。階段で転んで顔をぶつけたって言うからさー、その話をしてた」

「怪我をしたの? ただ、転んだだけ?」

「貧血だってさ。怪我したから顔は見せたくないんだって。僕、部屋に戻るね。トラブルとラインするんだ〜」


 テオはルンルンと部屋に帰って行った。


 ゼノは胸を撫で下ろす。


「明日は大丈夫そうですね」


 ノエルは「大丈夫じゃないでしよー」と、不安を隠さずに言った。


「え? どういう意味ですか?」


 ゼノはジョンと顔を合わせながら、ノエルを見る。


「トラブルが隠し通せるかなー。セス、どう思う?」

「何が何でも隠すさ。自分がテオの仕事にどれほど影響を与えるか、今日、分かっただろう」

「まあ、そうだよね。さ、僕も寝よ。ジョン、来ないでねー」


 ノエルが部屋を出て、残されたゼノとジョンはセスを見る。しかし、セスも詳しい事は何も言わず、肩をすくめて出て行った。


「ジョン、今の分かりました?」

「今のって、どの今の?」

「明日、大丈夫じゃないかもしれないって所です」

「大丈夫じゃないんですか?」

「ノエルは、そう言いましたね」

「そうですか?」

「隠し通すとは、何の事でしょう……」

「そうですか?」

「……ジョン、話を聞いています?」

「聞いていますが、分かりません」

「まったく……ジョンも早く寝て下さい。お疲れ様でした」

「そうですか?」

「こらっ!」

「アハハー! ゼノ、おやすみなさーい」


 ゼノはジョンを見送り、ため息をく。


(テオの中でトラブルが、どんどん大きくなっていますね。いつか、破裂しなければ良いのですが……)


 部屋に戻ったテオは、スマホをにらんでいた。


(早く鳴れー。早くー……)


 しかし、トラブルからの連絡は一向に来ない。


(寝ちゃったのかな……もう夜中だもんね。いつもなら、とっくに寝ている時間だし。僕の時間に合わせてくれているんだ。明日も朝から仕事だから、寝たいよね。トラブル……お休みなさい)


 テオはスマホを握りしめてベッドに入った。






 シャワーを終わらせたトラブルは、テオ達のLiveが終わっているにも関わらず、テオから連絡が入っていないと驚いた。


(いい子で待っていてくれているんだ)


 ラインを送る。しかし、テオからの返信はなかった。


(まだ、ゼノの部屋にいるのかな? セスが余計な事を言ってなければイイけど……本当に返信がないな……)


 トラブルは少し待ってみる事にした。


 ベッドに入り、チョ・ガンジンを尾行中に見つけた本屋で買った、ドイツ人医師の本を読む。


 痛む手と半分しか開かない目には、この本は重かった。


 トラブルを疲れと眠気が襲う。本を閉じてスマホを見ても、既読は付いていなかった。


(寝ちゃったな……バカ……)


 トラブルも睡魔に誘われるままに落ちて行った。






 翌日、トラブルのまぶたの内出血班はさらに黒ずみ、そして広がっていた。


(これは吸収されるまで時間が掛かりそうだ)


 トラブルは全治3週間では済まないかもと、首を振る。


(ん? 日本公演の後、テオは一時帰国するんじゃ……ヤバッ、5日後じゃん! うちに泊まる約束をしたんだっけ。どうしよう……)


 その日の夜、日本の名古屋公演を無事に終わらせたメンバー達は明日がオフということもあり、人混みが苦手なセスをホテルに残し、名古屋の夜の街に繰り出していた。


 ゼノは本音はホテルで休みたいと思っていたが、右手を骨折しているノエル1人にジョンとテオの世話は負担だろうと、重い腰を上げた。


 ジョンは久しぶりの夜遊びに浮かれていた。


「僕、クラブって2回目だよー」

「え! ジョン、クラブに行った事あるの?」

「うん。ソウルでゼノと行ったー」

「そうなんだ、知らなかったよ」

「新しくオープンした店に招待されて、雑誌にコメントを書いたのですよ」

「なーんだ、仕事でかー」

「めちゃくちゃ、楽しかった!」

「じゃあ、プライベートではクラブデビューだね」

「うん!」

「あまり、ハメを外さないで下さいよー」


 先を歩くマネージャーがクギを刺す。


 ジョンは「ベーっ」と、舌を出した。


 ホテルを出る前に、ア・ユミにオススメのクラブを聞いたのが間違いの元だった。


 ア・ユミはメンバー達が夜遊びに行こうとしていると、マネージャーに告げ口したのだ。マネージャーは何かあった時の為に、通訳としてア・ユミに同行を求めた。


 そして、2人で付いて来る事になった。


「2人が来るなら、私は帰っても良かったのでは?」


 ゼノは不満を漏らすが、マネージャーとア・ユミは口を揃えて「無理です!」と、ゼノを引っ張って来た。


「保護者同伴の夜遊びってある?」


 ノエルは髪をかき上げて笑う。


「保護者公認!」


 ジョンがバンザイしながら、目に付いた店に入る。


「違います! ジョンさん! そこではありません!」


 ア・ユミが止め、ジョンは慌てて店から飛び出した。


「ジョン、浮かれ過ぎだよー」


 皆に笑われ、ジョンは腕を組みながら「だって、クラブって書いてあったもん!」と、頬を膨らませる。


「そこはフロアレディーがいるクラブです。えっと、あの、女の人が接客する……」


 ア・ユミは言葉を濁すがマネージャーは聞き逃さなかった。


「個人的には入りたいですがね」

「僕もー」


 ノエルが手を挙げて、テオににらまれる。


「ノエル! そんな所、ジョンを連れて行けないでしょ!」

「え、僕も綺麗なお姉さんに囲まれた〜い。大人だも〜ん。ゼノ、いいでしょ? おねが〜い」


 ジョンのおねだりに、ゼノは皆の視線を浴びながら、大きく息を吸って答えた。







【あとがき】

綺麗なお姉さん……好きです。

いや、赤ちゃんのキレイな肌に触りたくなるのは男女共通な感覚で、綺麗なお姉さんが好きなのも男女共通……

って事にしておいて下さい。

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