第79話 一億ウォン ゲット!
翌日。
メンバー達は朝からテレビ収録で出払っていた。ユミちゃん達もメンバーと行動を共にするので不在だ。
静かな朝。しかし、会議室では事務局長とトラブルのバトルが始まろうとしていた。
《現在、当社の健診はソウル中央病院に委託しておりますが、血液検査結果の開示のみで、その他の検査は異常なし、又は要再検査としか情報が提供されておりません。問い合わせましたが、要再検査とある方は再受診して精密検査を受けて下さいとの事で、レントゲンや心電図結果の内容は開示しない方針だそうです。これでは、健診・精密検査・専門医への紹介と、治療までに3段階の時間をかける事になり、しかも、ソウル中央病院は受診・検査が完全予約制であり、検査結果を得る為に多大な労力と時間を必要とします。その為に健診後の治療への足が遠のき、それが再検査につながっていない原因と考えられます。そこで、ソウル中央病院への委託を止め、身体測定・問診・血圧測定・尿検査・心電図は社内医務室。血液検査とレントゲンは外部発注を行い、異常時には直接専門医へ紹介するシステムを構築したいと考えます。また、安心してカウンセリングを受けられる環境を職員に提供する義務が会社にはあると考えます。以上が今回、医務室の改築と電子カルテ導入の目的であり、管理者の皆様には是非、承諾して頂きたい案件であります》
トラブルは、事前に文章で用意していた医務室改造計画を、代表はじめ事務局長に見せる。
読み終わった代表は腕を組んだまま何も言わない。
初老の事務局長は目をしょぼしょぼとさせながら「異常は医師が診断するもので、専門医への紹介も看護師には出来ませんよね?」と、質問を始めた。
「電子カルテも、病名がついて治療を行うなら診療報酬の請求が出来て採算がとれるかもしれませんが、医師がいなくては話になりませんよね?」
首を傾げて質問をする事務局長に、代表は渋い顔で稟議書の下の方をトントンと指差す。
そこには『職員募集・要医師免許』とあった。
「医者も雇えと言うんですか⁈ 健診で異常が出た職員だけの診療情報提供書代だけでは医者の年俸は
(さすが、年の功。この事務局長やるな)
トラブルは心の中で舌打ちするが顔には出さない。
代表は机に肘を付いて高額請求の稟議書を見下ろす。
「確かに……今の医務室は倉庫のようで暗いし安心して心と身体をリフレッシュ出来る環境ではない。この資料によると、ソウル中央病院に支払っている金額より、外部発注の方がコストパフォーマンスは良い。しかし、その差額で医者を雇う事は出来んぞ。お前は異常は見つけられるんだよな? なら、誰か医者か病院とお前が提携して専門医を紹介してもらうではダメなのか?」
それもありですが、儲けにはなりませんよ?
「金儲けは必要だが健診は会社の義務で、年1回の事だし……そうだよ! お前、年1回の健診の為に医者を雇えとは乱暴すぎるだろ!」
バレましたか。
「なんて奴だ。危うく騙される所だった!」
では、年1回、健診の時だけ医師のバイトを雇うのは?
「そんな事、出来るのか?」
はい、出来ます。あてがあります。
「なら、それで解決じゃないか。なぁ?」
代表は明るい顔で事務局長を見る。
「え、ええ。そうですね」
「医者を雇わなくて良くて、外部発注で浮いた分をバイト代に回せばいいんだから解決じゃないか?」
「しかし、この稟議書の金額はちょっと……」
「電子カルテがいらない分、引いてみろ」
トラブルは電卓を打ち出す事務局長にここぞと手話で言う。
あと、血液ガス測定器もいりません。
「これも必要ないとさ。お、だいぶ下がるんじゃないか? ほら、椅子とかカーテンとか、もっと安い物があるだろ?」
中古品で充分です。
「な? 半分にはなるんじゃないか?」
「はい、半額以下になりますが……」
「いいじゃないか。あとは、こいつの、あての医者と契約書をキチンと
「……はい。そのようにします」
「よし! 会議終わり! あー、お前から値切れて気分がいいー!」
代表は満面の笑みで出て行った。
事務局長と目が合う。
「……見事に予算1億ウォン取りましたね」
肩をすくめ、ニコッと笑顔を見せるトラブル。
「はぁー……」
事務局長はそれはそれは深いため息を
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