第361話 バイクで尾行
「トラブルさん、トラブルさん」
誰かに肩を揺らされて目が覚めた。
見上げると、ハン・チホが立っている。
テーブルの上はキレイに片付けられており、ユミちゃんの姿はない。
トラブルは少し寝てスッキリした頭を振り、手でハン・チホに座る様に
ドアに診察中の札を出してロールカーテンを下げる。
スマホのメモで質問をした。
『今日はレッスンを休んだのですね』
「はい、チョ・ガンジンさんの機嫌が良くて……靴を買ってくれましたが、あれも僕達のお金を使ったんですよね?」
『たぶん。チョ・ガンジンはあなた方と別れた後、お酒を飲む店に行きました。その代金もあなたの生活費だと思います』
「昼間から……僕達にレッスンをサボらしておいて」
『機嫌が良いとレッスンを休んでいいとは、レッスンを罰の様に使っているのですか?』
「あ、はい。機嫌を
『罰になっていた以上、その気持ちは仕方がありません。他に今日、いつもと違う事はありませんでしたか?』
「僕に多く生活費を渡してくれました。それで撮影もあるしって言ったら渋々でしたが買い物を許してくれました」
トラブルは
『撮影を持ち出すのは賢いやり方です。代表はチョ・ガンジンに、あなたは “ポストゼノ” だと言ってあります。あなたのデビューを信じて疑っていないので、今から恩を売る気になっているのでしょう』
「ぼ、僕がポストゼノですか⁈ デビューって……」
『チョ・ガンジンを
「あ、そうですよね。すみません……」
事情は知っていても思わず喜んでしまう幼さに、大人の嘘に巻き込んでしまったと、
トラブルは話題を変えた。
『体の
「実家で薬をキチンと塗っていたので落ち着いています。病院で
『どれだけ疲れていても、汗を洗い流して薬を塗るのを忘れないで下さい。その内、ステロイド剤から卒業出来ます』
「はい。忘れない様にします。あの、少しレッスンしてから帰ってもいいですか?」
『はい。他のグループの子がいますよ』
「ありがとうございます。明日は何か、やる事はありますか? チョ・ガンジンさんを怒らせるとか……?」
『本当に殴られては大変です。あなたは積極的に動かないで下さい。スマホを貸して下さい。念の為に、私の番号を緊急登録しておきます。身の危険を感じたら連絡をして下さい。また、明日も報告と診察に来て下さい』
「はい。ありがとうございました」
ハン・チホは礼儀正しく頭を下げて、医務室を出て行った。
(さて。もう、6時か……あー、
トラブルは注射器に鉄剤を吸わせ、自分の静脈に打った。
(食事が大事だって言われても、鉄剤の副作用で胃がムカムカするし……でも、昨日のチョコレートケーキの夕食はマズかった……今日は、焼肉でもテイクアウトするか……)
トラブルは医務室の戸締りをして帰路についた。
途中で伊達メガネを買う。
(代表の言う事を聞くのはシャクに触るけど……2本買っておこう。夕食はどこで買おうかなぁ)
バイクを走らせながら、テイクアウトの出来る焼肉店を探す。
(ん! 今の!)
トラブルは、すれ違った人物の後ろ姿をミラーで見る。
(間違いない。チョ・ガンジンだ!)
慌ててバイクを停めて振り返ると、チョ・ガンジンは派手な服装の女性と腕を絡ませ、信号待ちをしていた。
信号は青に変わり、チョ・ガンジンと女性は道路の向こうに渡って行く。
(どうしよう……)
トラブルは道路脇にバイクを停めたまま、チョ・ガンジンの行く先を見た。すると、2人はバス停の時刻表を見始めた。
(バスに乗るのか? よし……)
トラブルはバイクを走らせ、右折を繰り返してバス通りに出た。バス停の手前で停車する。
2人はバス停のイスに座っていた。
(やはり、バスに乗るんだな。あの女性は誰だろう。逆光だけど……)
トラブルは2人の姿をスマホで撮り、代表に送った。
しばらく待っていると市内バスが到着した。
2人は腕を組んだままバスに乗り込む。トラブルはバスの後ろをゆっくりと付いて走った。
次のバス停に到着したが、2人が降りた様子はない。
(これはー……バスの尾行は難しいぞ)
バス停で降りる人物を確認する為に、バスと共に停車させて後ろから乗降口を
(ヤバっ、運転手に警戒されている。不審車両と通報されたらマズい……でも、止まらずに追い抜いたら尾行にならないし。こういう場合の基本は何だ⁈ 肝心な事は教えておいてくれないんだから……えーと、考えろ……)
トラブルは市内バスの行き先表示を見上げる。
(このバスはソウル市立大学行きだから、奴の自宅方面だ。女と家に帰るつもりか……? えーい、一か八か、このまま通報されるよりはイイだろう……自宅前に先回りだ)
バスを追い抜き、スピードを上げた。
目についたコンビニで、栄養補助スナックと水を買う。
(今日の夕飯がこれだけになりません様に……)
バイクのスピードをさらに上げて走る。
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