第317話 アイスが冷めちゃう
「特にない。ダテ・ジンに誘われて会場周辺を散歩しているのかも。2人で……手を
「はい、セス! そこまで!」
テオの顔がおかしくなる前に止める。
しかし、少し遅かった。テオは顔を真っ赤にして鼻の穴を膨らましたまま、口をパクパクとさせる。
「セス、言葉に気を付けてと言ったのに……」
ゼノが再び、頭を抱える。
「テオちゃーん、鏡、見てごらん? ほら、ブサイクになってるよ? ダメだよね? そう、落ち着いて、顔を作ってー……そう! イケメン、テオちゃんに戻りましたー!」
ノエルの誘導でテオは何とか自制心を取り戻した。
「セス、わざと僕が怒る事を言ったんでしょう?」
「当たり前だろ。あいつが仕事を放り出すわけがない」
「そうだよね……トラブル! 信じているよ! 一瞬でも悪魔に心を操られた僕を許して下さい!」
テオは、祈る様に天井を
「ひどい言われ様だな」
他人事の様にしれっと言ってのけるセスを、リーダーは
「セス、公演前にやめて下さいよー。冷や汗が出ましたよ」
「あー、面白い」
セスは椅子をクルリと回し、鏡に向かう。
「ソヨンさん。僕、もう行っていい?」
「はい、テオさん。ベースメイクは終わったので、結構です」
「ありがとう。ゼノ、僕、
テオはメイク室を出て行った。
「あーあー。僕、知らないからね」
「ノエル、なんですか?」
「
「え、でも、セスはいると」
「両方とも可能性があるから言ったんだよ。
「まあ、そうですが……セス、大丈夫ですよね?」
「だから、知るかって答えたのにゼノが無理矢理言わせたんだろ」
「ええ⁈ では、いない⁈」
「知るかっ」
その頃、トラブルは
床を
昨日、トラブルが直した断線箇所も新しいコードに変えられていた。
(掃除もされている……仕事が早いなぁ)
トラブルが感心していると、ア・ユミと昨日の日本人スタッフが顔を出した。
「あ、トラブルさん! 探していました!」
日本人スタッフは『おう、姉ちゃん。見たか? もう、断線なんてみっともない事にならない様にしたからな』と、笑った。
「本当にトラブルさんが修理をしたんですね」
ア・ユミの言葉に、トラブルは笑顔を返す。
日本人スタッフはトラブルと握手を交わし、仕事に戻って行った。
ふと見ると、伊達もなぜか涙こそ流してはいないが感極まった顔をしていた。
『あら。伊達くん、いたの』
『先輩、ひどいですよ。ずっと、いましたよー。トラブルはなんでも出来るんですね〜」
ア・ユミはグッと目を細める。
『伊達くん、バイクはやり過ぎよ。ゼノさんの前でトラブルさんと……」
『少し、ハメを外しただけですよー。楽しかったですよねー、トラブル』
『トラブルさんでしょ!『さん』!』
『でも、トラブルが呼び捨てにしてくれって』
『ゼノさんの気分を害す様なマネを、しないでちょうだい!』
トラブルは、ゼノ? と、首を
(なんで、ゼノが出て来るんだ?)
違う意味で眉間にシワを寄せる2人に、伊達は空気が読めないのか読むつもりがないのか、あっけらかんと誘う。
『トラブル、アイスを買いに行きませんか?』
『こら、伊達くん!また、呼び捨てに!』
トラブルは笑いながらスマホにメモを書いた。
『私はあなた方の仕事対象ではありません。呼び捨てにして下さい。アイスを買いに行って来ますね』
ア・ユミは、ダテとトラブルを2人にしては、まずいと考えた。
『トラブルさ……トラブル。私も行きます。3人でいきましょう!』
3人は、
「トラブル?」
テオは薄暗い奈落でトラブルの姿を探した。
しかし、すでにトラブルは立ち去った後で、そこには誰もいなかった。
(いない……本当に、ダテ・ジンさんと遊びに行っちゃったのかな。でも、ダテさんはトラブルとゼノが付き合っていると思っているはずだし、変な事にならないよね……)
テオは舞台袖から観客席に降りる。
隅の席に座り、作業が続く舞台を眺めた。
(天井が高いなぁ。ここに座るすべての人が僕達だけを見に来ているなんて不思議。一緒懸命に練習したんだから、
テオは、そのまま目を
「わっ!」
突然、頬に冷たいモノを押し付けられ、テオは椅子から飛び上がって驚いた。
トラブルが笑いながら、テオにアイスを差し出している。
「トラブル! アイス買って来たの?」
「たくさん、買って来ましたよー」
ア・ユミとダテ・ジンは、両手のコンビニの袋を持ち上げて見せる。
「ア・ユミさんと一緒だったんだ……」
「はい。セスさんの言う通り、トラブルさんと
「テオさん、アイス、
「うん、そうだね。早く皆んなに配ろう」
テオとダテ・ジンは控え室に向かい、並んで歩き出した。
「ダテくん、アイスが
ア・ユミの言葉に、トラブルは上を向いて笑う。
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