第28話 セスとの約束


 イ・ヘギョンが「失礼〜」と、メンバー達の前に立った。


「ジ…… じゃなくてトラブルの連絡先、分かるわよ〜」

「本当ですか⁈ 」

「メールしてみるわね〜。いつも返事は来ないから、どうなるか分からないけどね〜」


 テーブルにスマホを置き、声に出しながらメールを打つ。


「あなた、大丈夫なの?」


 しばらくして返信が来た。

 

 イ・ヘギョンが読み上げる。


「『大丈夫です』ですって〜」


 セスが「トラブルは大丈夫かと聞かれれば大丈夫としか答えない。具体的に聞いて下さい」と、低く言う。


「あら〜、トラブルの事、よく分かっているのね〜。じゃあ〜『今、どこ?』」


『部屋です』


「どうして、テオじゃなくて叱られたの〜?」


『情報が早いですね。警備員に、モノマネしていたスタッフがメイクも落とさないでノコノコとファンの前に現れるなど事故が起きるのも当然だと、叱られました』


「あなたのダンス最高だったわよ〜」


『ありがとうございます』


「よく、頑張ったわね。どうして頑張れたのかしら?」


 話がズレて来ていますよと、ノエルは笑う。


 あら、そう〜?と、イ・ヘギョンはのんびりと答えた。


 トラブルから返信が来る。


『セスと約束したので。自分で解決すると。何か1つの事を皆で成し遂げれば変わるかもと』


「え?」と、セスは怪訝な顔をする。


 ノエルに「約束したの?」と、聞かれても思い当たらない。


 イ・ヘギョンはかまわずメールを続けた。


「対人恐怖症は克服したってこと?」


『いえ。まだですが、セスが信じてくれたので少し自分も信じてみようかと思いました』


 セスは思い出した。


(あ! あのプールの時か!半年も前の約束を…… )


 ケガを聞いてと、テオが袖を引く。


「ケガはひどいの?」


『擦りキズなので大丈夫です。今、処置しています。背中は手が届かないので痛み止めを飲みました』


 ひと呼吸遅れてスマホがうなる。


『テオには内緒で』


「なんで⁈ 」


 文面を読み、テオは驚いて声をあげる。


 そのまま「なんで?」と、返信するヘギョン。


 トラブルの返事は『心配するから』だった。


 テオは顔を赤くして脱力した。


「湿布でもなんでも僕が貼るよー!」


「まあ、いい子ね〜。テオが湿布を貼ってくれるっ……」

「いや、いや、それは打たなくていいです」と、慌てて止める。


「そお? じゃあー、困った事があったら周りの人に助けてもらいましょうね〜。送信〜」


『努力します』


「まあ!あの子が前向きになってるわ〜、なんて事、信じられない〜!」


 イ・ヘギョンは声に出しながら打ち続ける。


「いい子ね。あなたは、1人じゃないのよ」


 すぐに返信が来た。


『代表が来たので失礼します』






 マネージャーが、代表から電話がありホテルへ戻ってかまわないそうですと、伝えた。


 メンバー達は車に乗り込む。ゼノはマスコミ用のコメントを読み返し、頭に入れていた。


 ジョンが気が付いた?と、皆に言う。


「いい子ねって、ヘギョンさんの口癖なんだね」

「ああ、そう言えばそうだね」


 ノエルは、その通りだと髪をかき上げる。


 セスは1人、考え込んでいた。


(あの時、トラブルが信じてと言い、自分は分かったと答えた……「分かった」の一言だけだ。それが何故こんなにも彼女に影響を与えたのか…… )


 腕を組む。


(トラブルとパク先生、イ・ヘギョンさんの関係は理解出来た。しかし、トラブルと代表の関係は? あのフラッシュバックの対応……教えてもらっただけで、出来るものなのか? やはり以前からトラブルを知っているかのような…… )


 考えたところで答えは出ない。

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